サイエンスイラストで「伝わる」科学 [第1回] なぜイラストなのか 連載 大内田美沙紀

一歩一歩描き示すことで説明が伝わる

 ある年の冬,私は大学病院に入院をしていた。学生時代に打ち込んだ柔道によって脱臼癖がついてしまった右肩を修復する手術を受けるためだ。この手術については事前に口頭や文面で何度も説明を受け,頭では理解していたつもりだったが,私は少なからずおびえていた。

 そしていよいよ手術を翌朝に控えた日の夕方,執刀医から手術の手順について改めて説明を受ける機会があった。あの時の先生の説明の仕方は今でも忘れられない。先生は,私の右肩のレントゲン写真を見せながら,何も書かれていないコピー用紙とボールペンを取り出した。何をするのかと思っていたら,先生はその白い紙に肩関節部分を丸や線で簡略化して図解し,「ここに内視鏡を入れて」「ここの靭帯を引っ張ってきて」「ここにボルトを入れて」とゆっくり描き示しながら私の反応を見つつ手術の工程を一歩一歩説明してみせたのだ。

 この時私はこれから自分の身で行われる手術の内容についてようやく本当に理解した。同時にそれまでの漠然とした不安が払拭されたのを覚えている。

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