逆輸出された漢字医学用語 [第3回] 精神病 連載 福武敏夫

 「精神」という言葉はいつからあったのか。中国に既にあったものを使用してきたと言われ,確かに紀元前300年前後の荘子の書にある。本邦では万葉集の大伴家持の長歌の中に出てきており,「こころ」と読ませている。しかし別版なのか,「情邪」という漢字が当てられているものがあり,真相は不明である。近代の中国では,1858年の『医学英華字釈』に「精神」がみえるが,これは「spiritus」の訳語である。

 医学用語としての「精神病」は『日本国語大辞典』によると,奥山虎章による『医語類聚』(1872)に初出し,「phrenica」や「psychosis」の訳語である。中国で医学用語として最初に現れるのは蕭瑞麟による『日本留学参観記』(1904)である。これはその年の秋に著者が留学生活中に見学した学校や各種工場について記したものである。小説では尾崎紅葉の『多情多恨』(1896)にみられる。

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