逆輸出された漢字医学用語 [第6回] 麻酔 連載 福武敏夫
2007年にボストンで開催されたAmerican Academy of Neurologyの年次大会に参加した時に,ボストン美術館を堪能した他に,神経学の三大聖地の一つMGH(Massachusetts General Hospital)を訪れた(他の聖地はパリのSalpêtrière病院とロンドンのQueen Square)。New England Journal of Medicineの症例カンファレンスの挿絵で有名な建物の最上階の講堂に上ると,そこが1846年に世界で最初の麻酔と言われるエーテル麻酔の公開実験が行われた場所である。同所にはその時の様子を示す絵が飾られており,思わず自分も参加しているかのごとき写真を撮った。しかし,世界で最初に成功した全身麻酔は1804年の華岡青洲による通仙散(麻沸散)を用いた乳癌手術で行われた。これを題材にした有吉佐和子の『華岡青洲の妻』(新潮社:1970)では医療にとっての大きな業績の陰に,母親と自ら進んで人体実験に身をささげた嫁との青洲の愛を争う深い確執が描かれていて大変興味深い。
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