レジデントのための患者安全エッセンス [第4回] 多職種チームで患者・家族に上手に説明したい 連載 荒神裕之

行ったり来たりで統合的な理解をめざす

 インフォームド・コンセント(IC)は「医療者から治療方針についてリスクと利益に関する十分な説明を受けた上で患者が同意するプロセス」1,2)です。医学的適応性,医術的正当性とともに医療行為を適法化する要件の1つであり3),患者の同意が得られない,あるいは拒否を受けた医療行為は,原則として行うことができません。同意の撤回も自己決定の1つです。例えば,患者の同意の下で行われていた血液透析を患者が新たに拒否した場合,実施を見合わせる(註1)ことになります。全国規模の調査5)では,47.1%の透析施設に透析を見合わせた経験があり,見合わせた患者の89.7%が高齢者,46.1%が認知症患者でした。一方で,透析を見合わせた患者の7.5%が透析を開始,あるいは再開したことが明らかになっています。また,意思決定プロセスの提言6)に準拠しない透析の見合わせが23.4%を占め,人生の最終段階ではない患者本人の強い意思と家族等の同意による見合わせにより,医療チーム(註2)が難しい判断を迫られ苦悩している現状が示されています5)

 

註1:透析中止の判断ではなく,透析を一時的に実施せずに,病状の変化によっては透析を開始する,または再開する意味がある用語4)

註2:「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」7)では,「人生の最終段階における医療・ケアについて,医療・ケア行為の開始・不開始,医療・ケア内容の変更,医療・ケア行為の中止等は,医療・ケアチームによって,医学的妥当性と適切性を基に慎重に判断すべきである」と示されている。

 

参考文献・URL
1)WHO.Conceptual framework for the international classification for patient safety version 1.1:final technical report January 2009. 2010.
2)日本医療安全学会/医療の質・安全学会合同 用語編纂委員会.医療安全用語集 第1版.2023.
3)甲斐克則.医事刑法への旅Ⅰ 新版.成文堂.2006;32-9.
4)透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言作成委員会.透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言.日透析医会誌.2020;53(4):173-217.
5)岡田一義.日本透析医学会「維持血液透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言」 その後の実態調査.日透析医会誌.2019;34(1):110-6.
6)日本透析医学会血液透析療法ガイドライン作成ワーキンググループ.維持血液透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言.日透析医会誌.2014;47(5):269-85.
7)厚労省.人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン.2018.

 

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