看護のアジェンダ [第236回] 孤独について 連載 井部俊子

 昨年,ある講演で,看護の本質は人間の,あえて限定的に言えば患者の孤独からの回避が根底にあるのではないか,「療養上の世話」や「診療の補助」という業は,そもそも患者を置き去りにしないという考え方に基づいているのではないかと述べたことで,私はそれ以来「孤独」に関心を持ち続けている。

 孤独は非歴史的なものでも普遍的なものでもない。また,単一の感情でもない。孤独は恐怖,怒り,憤り,悲しみなどさまざまな反応からなる個人的かつ社会的な感情群である。その表われ方は,エスニシティ,ジェンダー,性別,年齢のほかにも,社会・経済的階級,心理的経験,国籍,宗教など,環境によってさまざまである。孤独は心理的であるだけでなく身体的でもあり,その出現は18世紀末にさかのぼることができる。ちょうどそのころ,独りでいることの否定的な感情体験を言い表す新しい語として,「孤独」(ロンリネス)が登場した。それ以前は,「ロンリー」や「ワンリネス」という言葉は単に自分以外に誰もいないことを示すもので,それに伴う欠乏感を表すものではなかったのである1)

参考文献・URL
1)フェイ・バウンド・アルバーティ(著),神崎朗子(訳).私たちはいつから「孤独」になったのか.みすず書房;2023.p257.

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