応用倫理学入門 科学技術に伴う諸問題を考える [第2回] 道徳的地位――どのような存在に,どの程度の倫理的配慮をすべきか 連載 澤井努

 医療の現場において,倫理は単なる理論ではなく,日々のさまざまな実践に直結する重要な指針として機能することが期待されています。また,医療従事者,医療者を志す学生にとって,倫理的な判断力を養うことは,専門的なスキルを磨くのと同様に不可欠だとされています。

 今回注目する「道徳的地位(moral status)」1, 2)は,医療における意思決定や患者とのかかわり方を考える上での基本概念の一つです。医療の文脈においては,通常の患者に加え,終末期や認知症の患者,胚(受精卵)や胎児,脳死者など,さまざまな状況下にある人々の道徳的地位が問題となります。言い換えれば,多様な存在にどの程度配慮すべきかが問題となるのです。この概念は,人間だけではなく,動物,自然環境,さらには人工知能といった幅広い対象にも適用されます。

 本稿では,道徳的地位の概念を概略した上で,具体的なシナリオも交えながら実践的な理解を深めていきたいと思います。

参考文献
1)Warren MA. Moral Status:Obligations to Persons and Other Living Things. Oxford University Press;1997.
2)澤井努.命をどこまで操作してよいか――応用倫理学講義.慶應義塾大学出版会;2021.

 

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