看護のアジェンダ [第238回] 看護の知の普及 連載 井部俊子

 「看護師だった私が病院を辞め,研究の道に向かうことになったのは,ある患者さんとの出会いと別れがあったからである」と,坂井志織さんは書き始める。

 当時,総合病院の脳神経外科病棟“7東病棟”に勤務していた坂井さんは手術のために入院した村中さん(仮名)と出会った。看護師3年目で初めて担当した脳腫瘍の患者であった。村中さんの手術は予定どおり行われ成功した。しかし,腫瘍の摘出部位が脳幹部に近いこともあり,脳浮腫に加えて意識障害や小脳失調,嚥下障害など複数の症状から誤嚥性肺炎を併発した。やがて自発呼吸が困難になった村中さんは,気管挿管をされて人工呼吸器を使用する状態が長引き,気管切開が行われた。村中さんは,意識障害と高熱が続き衰弱が激しく生死の境をさまよった。家族は仕事帰りに面会に訪れては,さまざまな機器につながれた意識のない村中さんのそばにじっと座っていた。担当看護師であった坂井さんは,家族にその日の体調を説明し,着替えのお礼を言いねぎらいの言葉をかけベッドサイドで一緒の時を過ごした。

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