せん妄は,終末期の患者さんに高頻度でみられる精神神経症状です。終末期のせん妄は特に回復が難しく,対応が難しい場面の1つです。せん妄によって患者さんの苦痛が増大することに加え,ご本人らしさや意思の表出が妨げられることがあります。また,混乱や興奮といった姿を目の当たりにすることは,家族にとっても大きな不安や悲嘆につながります。そのようなケースに向き合う必要に迫られた時に私たちは,「何をめざし,どう寄り添うのか」という問いに改めて立ち返ることが求められます。
回復が難しいからこそ,ケアゴールの設定が重要
せん妄ケアのゴールは,患者さんの状態や予後,意思疎通の可否,家族の意向など,さまざまな要素を踏まえて柔軟に考える必要があります。「夜間だけでも落ち着いて眠ってほしい」「本人らしい穏やかな姿に戻ってほしい」といった,家族の願いを出発点とする場合も時にあります。しかし,ケアのゴールには明確な正解がないため,医療チームの経験や価値観によって判断が分かれることも少なくありません。たとえば,「鎮静をどうとらえるか」「治療をどこまで追求するか」といった点では,意見が分かれやすいのが現状です。先行研究では,患者さんや家族の価値観に基づいてケアゴールを設定し,それに応じた症状緩和を行うことの重要性が指摘されています1)。また,必要最小限の薬剤で苦痛を和らげる調整型鎮静(proportional sedation)という考え方も普及してきました2)。日本国内の研究では,終末期せん妄におけるケアゴールとして,①症状や苦痛の十分な緩和,②コミュニケーションが取れる,③自己の連続性の保持,④家族へのケア・支援の提供,⑤バランスの考慮の5つの要素(表)3)が示されています。これらは,患者さんと家族が「何を大切にしたいのか」について医療者が共に考えるための手がかりとなります。