第3回 トラウマへの支援/家族への対応/不登校と発達障害

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【登壇者】 
金生 由紀子(東京大学大学院 医学系研究科 こころの発達医学分野) 
今村 明(長崎大学 生命医科学域 保健学系 作業療法学分野) 
辻󠄀井 農亜(富山大学附属病院 こどものこころと発達診療学講座)

 

■トラウマをどのように支援するか

Q 発達障害をもつ人の,強いトラウマへの支援について教えてください。・・・助産師

金生 強いトラウマをもつ人への支援についても質問がありました。今村先生からコメントをいただけますか。
今村 発達障害のある人は失敗体験や対人トラブルの繰り返しでトラウマを経験しやすいです。日常的なトラウマ体験,“スモール t”なんて呼ばれ方をしますが,それが繰り返されることで,トラウマ体験に対する感受性が高まります。つまり,多くの人には何ともないことでも,その人には強く響いてしまうんです。そういう状態が続くと,安心・安全な感覚や世の中に対する基本的な信頼感というのは失われてしまいます。「誰も信用できない」「誰もわかってくれない」となる。当然,自己肯定感は低くなり,内在化障害や外在化障害も起こってきます。
金生  そういう人はどのようにフォローすればいいでしょうか。
今村 まず 支援者や医療スタッフとの間に安心できる関係性を築いていくことが一番だと思います。対応にあたっては,よく言われるようにトラウマインフォームドケアが原則になります。トラウマインフォームドケアというのは,「まず“トラウマの眼鏡”でその人を見ましょう」ということです。常にトラウマ体験が隠れていないか注意するんですね。この人の問題行動と思われるものは,実はトラウマに関連した行動なのではないかと考える感じです。次に安心・安全な環境をできるだけ提供していく。そして心理教育ですね。「あなたは過去の体験がトラウマになっていて,それを背景にしてこんな反応が起こっているんですよ」と,自分の反応について本人が理解できるように整理して伝えていきます。その理解ができたら具体的な対処スキルの話,例えば「フラッシュバックが起こってしまったら,このようにしましょう」といった話をしていきます。

 

■家族が当事者の場合の対応

Q 子どもの訪問看護や育児支援の場面で,親が発達障害かなと思う場面があります。対応の仕方について教えてください。・・・・助産師  

Q 助産師仲間より,発達障害の母親・父親に対する育児指導・支援をどのようにしたらよいかという相談を受けることが多くあります。特に発達障害の父親で,母親や児とのコミュニケーションがうまくいっていないケースが多いようです。ケースごとの個別性が大きく,細かく確認しないとアドバイスが難しいとは思いますが,発達障害のある父親の支援にどのようなスタンスで臨むのがよいか,アドバイスいただけますでしょうか。・・・ 助産師  


金生  家族が当事者の場合の質問もいただきました。訪問看護や育児支援の際に親が発達障害ではないかと思う場合の対応について,辻井先生からコメントをお願いします。
辻井 総論的な話となりますが,例えば子どもへの支援の中で,ご家族やお母さん・お父さんが発達障害ではないかと思うときには,その特性に応じた対応を考えることが重要です。私たちが「この人には発達障害の特性があるのではないか」と認識した場合,それに適した対応を試みることが必要です。 例えば,連絡が取りにくく忘れっぽい場合には,定期的にリマインドを送る方法があります。また,コミュニケーションが取りにくい場合には,文字やイラストを使って具体的でわかりやすく説明することが有効です。
金井 どういう対応がその人にマッチするか,いろいろ試してみるのがいいですね。
辻井 そうですね。ある方法がうまくいかなかったら別の方法を試みる。1つのやり方に固執せず,柔軟に対応を変えながらアプローチしていくことが求められます。
金生 質問にある,父親に発達特性がみられる場合はどうでしょうか。
辻井 まずは母親への心理療法や精神療法を行うことが多いです。父親が発達障害かもしれないという場合は,母親が孤立して悩んでいることをよく経験します。子どもが受診しているときに,母親に話を聞いて父親に対する困りごとを整理するのも一案です。まずは「結婚する前,母親がどのように父親とお付き合いをしてきたのか」「その頃に何かトラブルはなかったか」「新婚の時代はどうだったか」「子どもが生まれてからはどうか」などを聞き,夫婦の関係がどのような経過をたどってきたのかを話してもらいながら,母親自身が余裕をもてなくなった原因を整理します。問題が整理されてくると,母親が余裕をもてるようになり,父親によりよく対応するようになりますので,父親も自分のことを理解しやすくなります。
金生 過去を遡ることは非常に大切ですね。付き合った頃は特性のプラス面がみえていてキラキラ輝いていたはずなので,過去を振り返ることで,父親の特性のよいところを思い出して,今後の付き合い方に生かせるとよいですよね。

 

■不登校と発達障害

Q 看護師として小児科で働いており,発達障害がある子どもが不登校になることが多いと感じています。心に傷を抱えている場合,休息は必要であり,無理に学校に行かせる必要はないとは思っています。しかし,心の傷は目に見えないため,心の傷が癒えており,ただ休みたいだけになっているのか,本当にまだ心が回復できていないのかわからず,登校を勧める時期や声かけの仕方にも悩んでしまいます。 学校は休んでもいいかもしれませんが,社会に出るとそうは言っていられない現実もあり,子どもたちが大人になった時,学校と社会のギャップに悩んだり,社会に自分は不適合なんだと責めてしまい,心の病につながってしまわないか心配しています。 今学校に行かせることで子どもが再度傷つくことや,大人が子どものためを思ってしたことでも,子どもが大人を頼れない存在だと認識してしまい,子どもの拠りどころを減らすようなことはしたくないのですが,どのような関わりをもつことが大切なのでしょうか。・・・ 看護師(小児科)  

金井 不登校と発達障害との関係もよく言われます。辻井先生にお答えいただければと思います。
辻井 発達障害のある子どもたちは不登校のリスクが少し高いということは,最近いくつかの報告があります。今回の質問に関しては,本人が本当にただ休みたいのか,まだ回復できていないのか判断が難しいということだと思いますが,本当に休みたいだけで,本人が楽しそうにしているのであれば,それはそれでよいのかなと思います。ただ, 大部分の子は休んでも楽しそうではなく,ゲームをしていたとしても,本当に熱中して楽しんでいるわけではない場合もあり,基本的にまだ回復できていない部分があるのではないかと感じます。
金井 社会とのつながりをどうもつかということについては,いかがでしょうか。
辻井 学校だけが社会ではないということが重要です。その地域での活動に興味をもってもらうのでもよいし,地域の放課後等デイサービスなど,学校以外に社会とつながりをもつ場所を見つけてもらうとよいのかなと思います。
金井 確かに,学校以外の道を見つけられるといいですね。
辻井 学校に行かないと,実際のところ私たちも焦ります。例えば,自閉スペクトラム症(ASD)の人は,社会との関わりに関心もてないと,学校に行くのが難しいことも少なくないです。学校って,彼らにとってはとてもしんどい場所ですから。ただ,そうなったとしても 成長の過程で,自分の関心のあることがきっと見つかります。それに取り組むようになると自然と家の外に出ていく。家以外での活動が増えてくるんです。時間はとてもかかりますが,この流れを支えることが大切です。また,注意欠如多動症(ADHD)のお子さんは学校で非常に傷ついてしまうことがあります。その場合は,本人が傷ついた体験を少しずつ繰り返し繰り返し,あの手この手で支える。できれば家族と一緒に,相談しながら支えていくことが重要です。地域の保健師さんやNPO法人など関わってくれる人たちは今増えています。そのような人たちにサポートしてもらうことも大切だと考えています。
金井 ありがとうございます。そうですね,一人ではできないことも多いので,いろいろな人と関わり,情報を発信していくことが大事だと思います。
辻井 それでも,学校の存在は大きいです。スクールカウンセラーの先生に相談するというのも1つの手です。私はスクールカウンセラーの先生にはいつも助けていただいています。たとえ月に1回であったとしても,面談してもらうことが不登校のお子さんたちにとって大きな支えになっています。

 

金生 由紀子 
東京大学大学院 医学系研究科 こころの発達医学分野 准教授 
東北大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科,北里大学大学院医療系研究科などを経て,現職。東京大学医学部附属病院こころの発達診療部・部長を兼務。児童精神科医。医学博士。日本精神神経学会精神科専門医。日本児童青年精神医学会認定医。子どものこころ専門医。チック症,OCD,ASD,ADHDなど発達期に強迫性及び衝動性が問題になる疾患を中心に児童青年精神医療を担当。家族支援及び学校保健にも関心がある。

 

 

今村 明 
長崎大学 生命医科学域 保健学系作業療法学分野 教授 
1992年長崎大学医学部卒業。2000年同大学院卒業。2016年3月~2023年4月長崎大学病院地域連携児童思春期精神医学診療部・教授。2021年10月より現職。日本精神神経学会専門医,子どものこころ専門医,臨床遺伝専門医,日本医師会認定産業医,公認心理師等。主な著書として『注意欠如・多動症―ADHD―の診断・治療ガイドライン 第5版』(「ADHD特性の脳科学的理解」共著,じほう,2022年),『おとなの発達症のための医療系支援のヒント』(単著,星和書店,2014年)など。児童相談所,家庭裁判所の嘱託医でもあり,子どもの発達,愛着,トラウマの問題に関心を持つ。 

 

辻󠄀井 農亜 
富山大学附属病院 こどものこころと発達診療学講座 客員教授 
2001年産業医科大学医学部医学科を卒業後,近畿大学医学部精神神経科学教室に入局。同大学院を経て,2022年6月より現職。日本精神神経学会・専門医・指導医,子どものこころ専門医・指導医。専門領域は児童青年精神医学,特に,注意欠如多動症を含めた発達障害と気分障害といった精神疾患の併存・つながりに関心を持つ。日本児童青年精神医学会代議員・理事,日本青年期精神療法学会理事。主な著書として中村和彦・編『子どものこころの診療のコツ 研究のコツ』(共著,金剛出版,2023年),『自閉症治療の臨床マニュアル』(共訳,明石書店,2012年)がある。 

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