第7回 人は宝~地域の中で存在価値を高める
平田 一人(医療法人藤井会石切生喜病院病院長 / 大阪公立大学名誉教授)
※本記事は『病院』83巻7号(2024年7月号)pp586-587を転載(一部改変)しております。病院経営の専門誌『病院』は“よい病院はどうあるべきかを研究する”雑誌です。ぜひ,併せてお読みください!
■公立大学病院で臨床医から病院長に
私は,1978年に大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部を卒業し,2006年に大阪市立大学大学院医学研究科呼吸器内科学教授となり,2012年より6年間同医学部附属病院副院長,2018年より2022年3月まで同院の病院長を務めました。
病院長に就任するまでの経緯としては,まず執行部に入り病院長補佐を2年務めました。その間は,病診連携と患者支援について,自分自身も重点的に勉強しながら,その強化に注力しました。その後6年間,副院長となってからは,保険診療部門はもちろん,保険外の赤字の部門(特に健診センター)の立て直しなど,経営面から携わりました。
手術担当,医療安全対策担当など,それぞれの担当を持った4人の副院長が,患者数の増加,病床管理,病院全体の効率化など,収益化につながる取り組みを進めました(筆者は経営,病診連携,健診センター担当でした)。それは,赤字などの問題を調査し,原因を洗い出し,データ化し整理したうえで対策を考える,というシンプルで基本的なことです。これは研究や診療の場においても同じことが言えますが,「問題があれば原因を調査し,対策を考える」ことを副院長時代に繰り返してきたことで,さまざまな問題への対策ポケットが増えてきました。
執行部に入ってからの8年間で,執行部員の人となりを知り,人間関係の構築もできました。そのなかで病院長に就任したため,就任する頃には何をすべきか把握できており,問題解決に向けてスムーズに取り組むことができました。こうして私は病院長になりましたが,急に病院長に就任したというわけではないのです。病院長になるにあたって,執行部での8年間の準備期間があったということです。病院長は2期4年務めました。
■石切生喜病院の病院長に就任して
2022年4月に石切生喜病院の病院長となりました。石切生喜病院は大阪府東大阪市のほぼ中央に位置し,「いしきりさん」として親しまれている石切劔箭(いしきりつるぎや)神社や,2019年ラグビーW杯会場の花園ラグビー場から歩いて数分のところにあります。患者さんが「生きる喜び」を感じてくださる医療施設でありたい,職員は患者さんと「生きる喜び」を共有したい,というのが病院名「石切生喜(いしきりせいき)」の由来です。
大阪の幹線道路に隣接する広大な敷地に外来棟や入院病棟など7つの棟を構え,高気圧酸素治療室,透析センター,PET-CT,手術支援ロボットも含めた最新の医療機器を備えた,大阪府指定がん診療拠点病院,救急指定病院として,東大阪地域の中核を担う331床の総合病院です。
私はそれまで公立の大学病院でしか勤めた経験がなく,民間の医療機関は初めてだったため,就任1年目はどんなところか様子を見つつ,すぐに始まる医師の働き方改革やタスクシフトをどうすべきかを中心に考え,病院の経営状態など全体の把握に努めました。
赴任して初めに感じたのは,なんといっても患者数が多く,手術件数も多いことです。各科の垣根がないので困ったときに相談しやすく,研修医が学ぶのにも良い環境です。小児科,産科,精神科以外はほぼすべての診療科が揃っており,高度専門医療を提供する一方で,無料駐車場や巡回バス網を整備して患者さんの利便性を工夫している地域密着病院です。そして職員がよく働き,あいさつが多いファミリアーな病院であると,非常に良い印象をもちました。その分残業も多いので,無駄を省き効率的に業務を進めていく必要があるとも考えました。
■病院長就任後すぐに取り掛かったこと
「困ったときの石切さん」をキャッチフレーズに,病院のテーマとして「安全で質の高い最新の地域医療」を展開していくと決めました。それが当地域の医療圏における当院の存在価値であると思っています。
医療安全や感染対策を強化し,組織のあり方や責任の所在を明確化しました。医療安全について,例えば転倒が非常に多い問題に対しては,患者に高齢者が多いことも要因ですが,検査機器を活用して骨や筋肉の状態などを調査し,入院時からリハビリテーションスタッフが介入することで,転倒予防を強化しました。医療事故対策については,従来の医療機器を見直し,より安全に使用できる製品へと変更しました。またリハビリの優秀なスタッフが多い割には収益化していなかったので,最低限平均18単位とし,リハビリを強化しました。
さらに,当院の各診療科と大学医局との人事交流を強化しました。大学からの医師派遣を継続し,医師の働き方改革の面からも,最新の知識や技術による医療提供レベルを維持する観点からも,大学との連携をより密にしていく必要があると考えます。これは「安全で質の高い最新の地域医療」につながります。
■石切生喜病院に赴任して3年半が経って
大阪公立大学からサポートしてもらえるようになり,安定的に大学からの医師派遣を維持できるようになって,医師の働き方改革の面でも改善につながりました。それまで停滞していた救急患者の受け入れ数も増え,月300台以上の救急車を受け入れています。
また,増患対策として,救急や予約入院のほか,地域医療機関からの紹介入院を増やすために,地域医療連携室の取り組みを強化しました。病診連携のための勉強会を2カ月に1度定期的に開催して,当院の強みを地域開業医の方々に知っていただき,当院を紹介してもらいやすい関係構築に努めています。それが,地域医療への貢献にもつながると考えています。
がん治療に関しては,薬物療法,手術,放射線治療の包括的な治療が可能であることや,手術に関しても開腹手術,胸腹鏡手術だけではなく,da Vinciでのロボット支援手術といった最新の治療も提供できるといった点を今後も継続・強化していきたいと思っています。一方で空き病床がなく当院で入院を受け入れられずに断るケースもあるため,今後増床の必要もあると考えています。病床管理も重要な課題だと思います。
■大切にしていること
私は「人は宝」だと思っています。常勤医約110人,看護師約340人を含む総勢約800人の職員が,当院の医療活動を支えています。各診療科部長のプライドや,やる気を尊重し応援していく方針です。職員全体が「人と人の和」を大切にし,人それぞれの多様性を尊重して,良いハーモニーを生み出してほしいと考えています。職員皆が,良い病院にしていこうと思ってくれているのは感じているので,そのベクトルを合わせるためにも,「安全で質の高い最新の地域医療」を展開していくという当院のテーマを,もっと職員に意識してもらいたいと思っています。
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