第8回 新米院長として「医療の谷間に灯をともし続ける」
足立 誠司(国民健康保険智頭病院院長)

※本記事は『病院』83巻8号(2024年8月号)pp 666-667を転載(一部改変)しております。病院経営の専門誌『病院』は“よい病院はどうあるべきかを研究する”雑誌です。ぜひ,併せてお読みください! 

 

■義務年限内派遣医師として勤務した病院へ四半世紀ぶりに院長として着任 
前職任は鳥取市立病院で総合診療科として,診療局長,地域医療総合支援センター長を務めていました。智頭(ちづ)病院は中山間地の小規模自治体病院で,常勤医の高齢化,院長不在,中間管理職不在,内科系指導医不在などの問題が顕在化し,鳥取県,鳥取市,智頭町が協議した結果,2022年10月より藤田好雄院長代行の後任として私が鳥取市(鳥取市立病院)から出向となり智頭病院院長を拝命しました。

 

私は1995年に自治医科大学を卒業し,義務年限内派遣医師として,卒後2年目,4年目に智頭病院に内科医として勤務しました。当時は総合病院として内科以外に外科,整形外科,産婦人科,小児科,眼科の常勤医がおられ,若輩の内科医としてはいろいろ助けていただいた思い出があります。その後,総合診療および緩和ケアに関心があり,総合内科専門医,緩和医療専門医,総合診療専門医を取得しました。2002年のWHO(世界保健機関)による緩和ケアの定義が一般的に知られていますが,その後定義が変遷し,2018年WHOは“Integrating palliative care and symptom relief into primary health care”という概念を提唱しました。その理念に賛同し活動をしてまいりました。

 

この度,四半世紀ぶりに再び智頭病院に,今度は院長として着任しましたが,智頭病院はケアミックスへ機能分化し,診療科は縮小していました。また,当時一緒に勤務した先生方は退職または,退職後再雇用となり,中間管理職が不足し,院長不在の時期もありながら,自治医科大学および鳥取大学地域枠の義務年限内派遣医師が主体となり医療を提供する状況となっていました。 

 

■過疎と高齢化が進む山あいの町で地域包括ケアシステムを整備してきた病院 
智頭町は鳥取県の南東に位置し,中国山地に囲まれた山あいの町で,面積の約93%を山林が占め,人口約6,200人,高齢化率45.4%です。過疎と高齢化が進む地方自治体が運営する病院で,超高齢社会を迎えた日本において典型的な町といえます。このため,歴代の院長先生方が取り組みを行い,いち早く医療介護福祉施設を併設し,医療介護福祉に関する切れ目のないケアを提供できる連携体制を整備しています。さらに在宅医療(訪問診療,訪問歯科診療,訪問看護,訪問リハビリテーション,訪問薬剤指導)を拡充し,入院や施設だけでなく,住み慣れた自宅で過ごせるような体制を整え,地域包括ケアシステムの一翼を担っています。 

 

しかし,いくら良いシステムがあっても,そのシステムを動かすのは“人”です。医療・介護人材不足は全国的にも問題となっていますが,特に中山間地の自治体病院にとっては大きな課題で,人を大切にして,育てる組織作りが求められます。 

 

■病院に所属するのではなく,地域に所属する医師を 
医食住は,住民が安心して生活をするために必要不可欠ですが,中山間地の常勤医確保は困難を極めつつあります。内科,外科,整形外科,小児科,眼科,皮膚科,耳鼻科,泌尿器科,産婦人科,精神科など,住民からのニーズはあるものの,それぞれの常勤医確保は非現実的です。近い将来,中山間地の自治体病院は総合診療医が日頃の診療を行い,専門的な診療枠(週1〜2日)を確保し,それぞれの専門診療科の先生にコンサルテーションしながら,診療レベルを維持していく姿が現実的ではないかと考えています。

 

このためには,総合診療を経験した義務年限内派遣医師だけでなく,義務明け後の医師確保を2次医療圏レベルで行い,必要な専門診療体制,診療科を把握し,病院所属ではなく地域に所属する医師を育成・確保(集約)しながら中山間地に派遣(分配)できるシステム作りが求められます。さまざまなステークホルダーがあり,一筋縄ではいかない状況が予想されますが,固定観念にとらわれない改革が必要と感じています。 

 

■医療の谷間に灯をともし続ける
奇しくも,私が着任した2022年は,自治医科大学は創立50周年でした。50年前,「医療の谷間に灯をともす」という建学の精神のもと,先輩たちの努力で純粋なへき地は減少しました。しかし,50年経過した現在でも,医師不足,医師の地域間偏在の話題は大きく取り上げられています。

 

卒後30年目を迎え,これまで医療の谷間に火をともしてこられた先輩たちが続々と退職,ご逝去されるようになりました。一時代の終わりを感じるとともに,先人から託された灯を絶やすことなく,ともし続けていくことが役目と感じています。

 

■リーダーシップについて考えるように 
臨床医が病院長になって,リーダーシップについてより深く考えるようになりました。リーダーシップには何種類ものタイプがあるといわれますが,私の中では,トップダウン型,ボトムアップ型をうまく使い分け,サーバント型リーダーシップを意識するようになりました。羊飼いにたとえると,時には自ら先導,時には後方から見守り,適宜介入し,バランスよく羊の群れを導いていくようなイメージでしょうか。まだまだ未熟ですが,組織にあったリーダーシップを発揮できるように尽力したいと考えています。 

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