ベルモントレポート・CIOMS
まず倫理3原則の前に、本レポートでは「研究」と「治療」の区別について説明している。現実に「治療」と「研究」に明確な定義がなく「研究が仮説を証明するための目的、方法を研究計画書に明記して倫理委員会の承認を得て研究参加者から同意を得る」と考えられている。そして、本レポートの3原則では研究参加者の保護のため「人格の尊重」、「研究参加者のリスクと研究による利益との評価」、これらを審査する「倫理委員会の承認」など治療とは異なるさらに高いレベルでの倫理原則の遵守が求められている。
次に倫理的3原則について説明する。
1)第一の倫理原則:研究参加者の人格の尊重
「人格の尊重」は二つの道徳的要件に分かれる。一つは個人の自律性を認める義務、もう一つは自律性が低下した者も保護する義務である。自律性が低下した者とは、未熟、病気、精神障害、その他の要因で自己決定権が制限されている場合である。この人格の尊重を実際に適用させる方法がインフォームドコンセント(IC)です。つまり、ICは研究の背景、目的、方法、リスクと利益など、研究参加者が理解できるような平易な言葉で情報提供し自発的な同意が得られるようにすべきである。例えば視覚障害があり同意説明文書が読めないからといって代諾者のみの同意で良いはずはなく、説明が適正かをみる立会人のもと、本人の同意が原則である。さらに同意説明文、同意方法が適切かを倫理委員会が審査を行う。
2)第二の倫理原則:善行
「善行」にも二つのルールが示されている。一つは医療原則でもある「害を及ぼさないこと」、もう一つは「可能な限り利益を最大化し、害を最小限に抑えること」である。この善行の実際の適用は「研究のリスクと利益の比較評価」である。研究のリスクは、研究参加者本人が治療上被る不利益、使用される薬物の有害作用などのリスクが考えられる。一方、研究による利益とは研究参加者本人の場合もあるが、将来の多くの他の患者に対する予想される利益の場合が多く、この将来の社会的利益と研究参加者本人における相反する利益/リスク評価は「臨床研究のジレンマ」として常に存在している。よって、倫理委員会では対象疾患、重症度などの現実の要因を考慮して審査し、当該研究参加者に対するリスクの最小限化に配慮することが極めて重要である。
3)第三の倫理原則:正義
ここでいう「正義」とは「分配の公平さ」であり、誰が研究の恩恵を受け、誰がそのリスク、負担を負うかであり、リスク・負担/利益を公平に分配するものである。一般的に分配の公平さの定式化された考えとしては①個人に均等に分ける、➁個々のニーズによって、③個々の努力によって、④社会的貢献に応じて、⑤個々の能力に応じて、などによると言われている。
この「正義」の問題は長い間、罰、課税、政治的といった社会的慣習として歴史的事例(タスキギー事件)と結びつき、不正義として社会的、人種的、性的、文化的偏見を生じている。このような現実においても「研究のリスク・負担/利益の公平な分配」を考慮すべきである。特に人種的少数派、経済的に恵まれない人々、重篤な患者、施設にいる人々など脆弱な人々に不正義が起こらないようにすべきである。
このようにベルモントレポートは簡潔な三つの倫理原則を示しているだけだが、人を対象とする臨床研究の大原則として極めて重要で深みのある倫理規範である。
文献
1) 「WMA Declaration of Helsinki – Ethical Principles for Medical Research Involving Human Participants」 https://www.wma.net/policies-post/wma-declaration-of-helsinki/ (最終アクセス:2026年4月22日)
2) 「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針(文部科学省)」https://www.mhlw.go.jp/content/001077424.pdf(最終アクセス:2026年4月22日)
3) 光石忠敬. 人間の尊厳と人権の関係─人間の尊厳は学問・研究の自由,幸福追求権,自己決定権など対立する価値との比較衡量を許すか─. Clin Eval 34(1)97-101, 2007 https://cont.o.oo7.jp/34_1/p93-101.pdf(最終アクセス:2026年4月22日)
4) 「H.R.7724 - National Research Act 93rd Congress (1973-1974)」https://www.congress.gov/bill/93rd-congress/house-bill/7724(最終アクセス:2026年4月22日)