1.主旨
臨床試験の実施の可否を審査する委員会は、米国では「施設内研究審査委員会(Institutional Review Board:IRB)」、英国では「Ethics Committee(倫理委員会)」、わが国では「臨床試験審査委員会」やGCP(Good Clinical Practice)上の「治験審査委員会」など、さまざまな名称で呼ばれているが、その基本的な役割はほぼ共通している。わが国では、臨床研究法における「特定臨床研究」を審査するために、認定臨床研究審査委員会が設置されている。
審査委員会の本質は、ヘルシンキ宣言で示されている「独立委員会」、すなわち当該臨床試験に直接関与しない第三者から構成され、ピアレビュー的な機能を有して、科学的および倫理的観点から審査を行う点にある。
ベルモントレポートは、IRBが個々の研究計画の倫理性を評価する際の基本原則として、①人格の尊重、②善行、③正義の3つを掲げている。人格の尊重とは、個人を自律的な存在として扱い、自己決定権やプライバシー権を尊重することである。善行とは、研究対象者のリスクを最小化し、得られる可能性のある利益を最大化することで、健常人に対する無危害の原則にも通じる。正義とは研究の利益と負担が公平に分配されることである。
2. 構成
IRBの構成委員は、GCPの規定では「医学、歯学、または薬学に関する専門知識を有する委員のほか、少なくとも1人の医学、歯学または薬学の専門家以外の委員、実施医療機関と利害関係を有しない者、治験審査委員会の設置者と利害関係を有しない者、合わせて5人以上で組織する」とされている。非専門家は、被験者の人権保護と倫理的観点からの審議を担う重要な存在であり、識見の高い一般市民などの参加が望まれる。また、委員会は男女両性で構成されることが望ましいとされている。臨床研究の適正性および信頼性を確保するため、IRBの委員には守秘義務を課され、設置者には委員の教育・研修の実施が求められている。
3.任務
IRBの責務として最も重要なことは、被験者の権利、安全および福祉を保護することである。そのため、以下の任務が規定されている。
① 治験実施計画書などによる当該治験を実施することの倫理的・科学的妥当性についての審議
② 被験者の治験参加の同意が適切に得られているかの確認
③ 治験実施計画書の重大な変更の妥当性についての審議
④ 治験の進行状況について適宜報告を受け、必要に応じて自ら調査を行い、意見を述べること
倫理的・科学的妥当性には、責任医師や分担医師の適格性の確認、少なくとも年1回の継続的な審議、同意取得に際して用いられる説明文書の内容が適切であることの確認が含まれる。治験実施計画書の重大な変更とは、投与量の大幅な変更や検査の大幅な増加など、主として被験者の負担が増大する場合が該当する。被験者への新たな説明文書も含め、審議が必要になる。また、治験の実施中に生じた重篤な副作用などについて、医療機関の長の求めに応じ、当該治験の継続の可否などについて意見を述べる必要がある。
4.審査
IRBの審査結果は、医療機関の長によって、治験責任医師および治験依頼者に通知される。医療機関の長がIRBの治験実施可の結論に同意しない場合には、実施しないことができる。IRBが治験実施不可の結論を出した場合には、その意見が尊重され、医療機関の長は治験を実施することができない。IRBの会議の記録およびその概要の作成、IRBの手順書、委員名簿と会議の概要の公表は義務づけられている。IRBの審査に際し必要な審査資料を表2-4-1に示す。
表2-4-1 IRB審査に必要な資料.
IRB審査に必要な資料を示す.医師主導治験では必要な資料が増える.

5.シングルIRB
個々の医療機関がそれぞれIRBで審議を行うのではなく、1つのIRBが複数の医療機関で実施される研究を一括して審査する「シングルIRB」制度が導入されている。これにより、実施医療機関ごとにIRB審査を行う必要がなくなり、人的および費用の負担が軽減される。一方で、その円滑な運用のためには、審査手続きの標準化や簡略化が必要である。