1)安全性情報の収集方法
臨床試験の本質が新規の治療の評価であることから、当然のことながら安全性の確保は成熟した治療よりも本質的に難しい。その前提に立てば、できるだけ多くの情報を全ての研究施設間で速やかに共有し合わなければならないことも自明であり、安全性情報の収集方法とその共有方法は極めて重要性が高い。
情報収集と共有には以下の段階が存在する(表1)。
表1 情報収集と共有における「段階」
| 各施設 | 中央 | |
| a | ルール通りに正しく情報を確認・収集 | |
| b | (速やかに)中央に報告 | (報告を受領) |
| c | 安全性情報の重要性を速やかに検討し対応を決定 | |
| d | (報告を受領) | 決定内容に応じた適切な方法で各施設に連絡 |
| e | 関係者間で適切に情報を共有して運用 |
(a)各施設において正しくルール通りに情報を確認する。(b)各施設から速やかに中央に報告する。(c)中央では安全性情報の重要性を速やかに検討し、対応方法を決定する。(d)中央は決定内容に応じた適切な方法で各施設に連絡する。(e)連絡を受けた各施設では関係者間で適切に情報を共有した上で運用する。
これらの手続きには非常に多くの関係者が発生する点が正しい運用を困難にするのが実際である。厄介なことにこれらの手続きが全ての関係者がきちんと運用して、初めてITT解析が正しく実施できたことになる点である。これは実際には不可能とすら思えるぐらいに大変なことであり、全ての関係者がその事実を重く受け止め、正しい運用ができる計画書作成・運用方法の検討・運用方法の周知徹底・各施設における運用方法の個別化した対応を行わなければならない。文言としてはあたり前のこととして読めてしまうであろうが、実際に安全に試験を実施するには、実務的にこれだけのことを非常に重大なことと受け止めてくれる人だけに臨床試験に参画して欲しい。どこの施設でも、どのような研究者・研究協力者でも参加してよいというものではない。非常に多くの参加者に協力してもらわなければ上手く行かないのが臨床試験であることを考え、その多数の参加者の安全を確保することの難しさを今一度意識して欲しい。
2)参加者が他の医療機関を受診したときには
安全性情報収集の実務をさらに複雑にする要因としては、参加者が他の医療機関を受診する可能性がある点である。後述する参加者の安全性確保が一義的に重要であるのは勿論であるが、その対応のための手法に、安全性情報収集のための仕組みを組み込んでおくことが肝要である。すなわち、参加者には「臨床研究参加者カード」のようなものを渡しておき、他医療機関に受診した際には必ず担当医にカードを見せて試験参加中であることを告げるように説明しておく必要がある。そのカードの役割には2つあり、(a)「治療に役立つ情報の提供書」と、(b)「受診時の情報=診察結果・検査結果・治療内容などの提供依頼書」の両方を兼ねたものでなければならない(表2)。
表2 臨床試験参加者カード
| カードの性質 | カードに含まれる可能性のある情報など | |||||
| 治療に役立つ情報の提供 | 試験参加の事実 | 試験目的 | 試験治療などの内容 | 禁忌などの注意事項・安全に実施できる治療などを判断する際に役立つ情報 | 報告依頼とその時期の情報(特に緊急で連絡をいただきたい条件など) | 連絡先(緊急に必要な情報が提供できる部署など) |
| 受診時の情報提供依頼 | 受診の事実報告 | 診察内容(診断) | 検査結果 | 治療内容 | 転帰(含予後など) | 連絡先 |
情報提供のタイミングは、後述の「報告期限」を参考にして必要な情報は速やかにご連絡いただけるようなものである必要があり、そのようなカードは臨床試験においては必須の資材であることから、計画書を作成する段階から作成が計画されているべきものであろう。勿論、各施設の置かれている医療環境などはさまざまであり、カードは施設毎に適応したものに修正することは問題ないが、必要な情報が網羅できているか確認する。
3)有害事象の定義
一般に思われている副作用と臨床試験における「有害事象」は異なる。試験においては「試験薬が投与された際に起こる、あらゆる好ましくない、あるいは意図しない徴候、症状または疾患のことであり、当該試験薬との因果関係は問わない」ことと理解して欲しい。臨床試験の参加者の数は実臨床に供された数より遙かに少なく、できる限り多くの安全性情報を集めたいことから、一見すると無関係に思えるような情報も集めておく。結果として実臨床に供されてから発見される情報と合わせて役立つこともありうる。また言葉の定義として有害事象をadverse event(AE)、重篤な有害事象をserious AEと言うことと後者の内容が表3に示した内容であることを記憶されたい。
表3 重篤な有害事象
| 1 | 死に至るもの |
| 2 | 命を脅かすもの |
| 3 | 治療のために入院または入院期間の延長が必要なもの |
| 4 | 永続的または顕著な障害・機能不全に陥るもの |
| 5 | 先天異常を来すもの |
| 6 | その他 医学的に重要な状態 |
なお有害事象の定義は「試験参加」に伴い発生する事象であり、同意取得の時点から発生した事象は全て対象である。