先にも述べた通り、試験の受益者は参加者ではないことから、参加者の安全確保は最優先事項といえる。倫理的に言えば、十分な科学性をもって得られると推定される利益を上回る危険が推定される試験計画は容認されないことから、試験計画段階から参加者の安全確保に十分な配慮が必要である。
さらに個別参加者の安全確保には、計画を十分に詰めるだけでは不十分で、具体的にどのように安全を確保するか、計画書に書きこんで準備するべき内容と、各実施施設での実務的準備を十分に行うことが含まれる。さらに試験成功には安全性情報をきちんと収集することも含まれることから、各施設の具体的対応に情報収集方法の確実さを高める準備を行うとともに、中央機関に至るまでの情報収集・伝達システムをきちんと検討し、さらにシステム全体の正常性を常に監視・改善する予防的努力が求められる。これらの項目について表5と表6に整理したので、表2とともに参照して欲しい。
表5 参加者の安全を確保するための対応(基礎)
| 臨床試験における項目 | 具体的項目 | 解説 | |
| 1 | 試験計画時に行う準備 | 試験は計画書通りに行う原則がある。 (1)有害事象に対する「基本的対応方法」を予め定めておく。 (2)特に重篤な有害事象に相当するかどうかの判断時の「重篤性」には配慮する。 |
特に注意を要するのは入院について。「試験の必要性から入院が計画書に記載されているもの」以外は重篤として判定されることがほとんど。 |
| 2 | 試験開始前までに行う準備 | (1)緊急時対応方法の確認、(2)院内関係部署への周知と依頼、(3)試験実施診療科内での周知、(4)補償体制の確認と整備、(5)試験責任医師不在時などの特殊な状況を含む対応方法など細部の確認 | 表6参照 |
| 3 | 有害事象発生時に取るべき緊急対応 | (1)参加者の安全確保と治療を研究より優先させること、(2)緊急時でもできるだけ正確な情報を収集すること(特に他の医療機関に受診した場合には注意)、(3)ルールに則った報告(次項4(2)にも関連) | 表4参照 |
| 4 | 有害事象発生時に求められる待機的対応(事務対応など) | (1)判断:(a)重篤・非重篤の判断、(b)試験薬との因果関係の判断、(c)未知・既知の判断、および予測可能性の判断、(d)有害事象の種類・程度などの判断 (2)報告:速やかに提出する報告書、追って提出する詳細な報告書 |
表3、表4も参照 |
| 5 | 試験開始後に行う継続的・予防的努力 | (1)自施設からの情報報告、(2)他施設(中央)からもたらされる情報判断(自施設の倫理委員会や施設責任者=病院長などへの報告を含む)、(3)試験参加者への報告や必要に応じて倫理委員会命令などにより再同意取得など | 治験や他機関が責任機関である場合は、大量の情報がもたらされるので、それを判断して適正に処理する責任が責任医師にあり。自主研究なら自らが情報収集する必要がある。 |
表6 特に重要な表5の項目2の詳細
| 1 | 緊急時対応方法の確認 | 治験などと自主研究では少し異なることもあるが、単純に参加者の安全について良く考えること。 | 治験では依頼者が規定していることが多い。自主研究では十分に安全確保のためにできることを考えた上で、内容を計画書に記載。 |
| 2 | 院内関係部署への周知と依頼 | 参加者死亡という本当に緊急事態を想定した上で、実務的な「流れ」を現実的に想像して、当該実施機関での対応をイメージ・対応すること。 | 実務的にはこの項目が非常に重要。 |
| 3 | 試験実施診療科内での周知 | (1)臨床試験を実施していること、(2)試験内容、(3)緊急時に使用しやすい対応マニュアルの作成と設置・設置場所の周知、(4)基本的な緊急時治療方法など、(5)責任医師不在時の対応方法 | これらの項目を診療科内で十分に共有すること。(4)は患者の安全優先、早期の責任医師への連絡、緊急時の試験担当医への連絡先、安全のための併用禁止薬情報を含む。(4)(5)などは対応マニュアルへの記載が望ましい。 |
| 4 | 補償体制の確認と整備 | 自主研究の場合は補償を無条件に行う責任が発生することを前提として準備する。保険などに加入する必要がある場合もある。 | 治験では依頼者が対応することが多いが、自主研究ではそれを責任医師が担当することを自覚すること。 |
| 5 | 試験責任医師不在時などの特殊な状況を含む対応方法など細部の確認 | (1)責任医師にはある程度の時間的余裕がある人が成らねばならない規程あり。(2)責任医師出張中などの対応を予め考慮。 | 一定の期日までに対応しなければならない責任があるため、十分に注意。それでもどうしても出張などが想定されることも多いので、分担医師にも責任医師の責務について理解しておいてもらう必要がある。 |
※前項の「表2 臨床試験参加者カード」
| カードの性質 | カードに含まれる可能性のある情報など | |||||
| 治療に役立つ情報の提供 | 試験参加の事実 | 試験目的 | 試験治療などの内容 | 禁忌などの注意事項・安全に実施できる治療などを判断する際に役立つ情報 | 報告依頼とその時期の情報(特に緊急で連絡をいただきたい条件など) | 連絡先(緊急に必要な情報が提供できる部署など) |
| 受診時の情報提供依頼 | 受診の事実報告 | 診察内容(診断) | 検査結果 | 治療内容 | 転帰(含予後など) | 連絡先 |