前項の表5、表6に示した内容を見ていただくと、明らかに責任医師の責務が大きいことが理解できると思う。責任医師は誰でもなれるわけではなく、これらの責務を十分に理解して実現できる人でなければならない。
しかし現実にはそれも不可能なことを表には示した。すなわち、臨床試験はチームで行わなければ安全に実施できないことも明らかである。実務的には実施施設毎に事情が異なることから、画一的なことを言っていては、実施できる施設はなくなってしまうであろう。そこで司令塔である責任医師の能力が問われることになる。自らの施設でのチーム能力を正しく評価し、必要なら人材を集めたり教育したりすることで、その計画書に対応できるチームが構成できるなら、試験に参加する、または計画した試験を自ら実施することができる。
非常に多くの施設が参加する臨床試験も多いが、その場合は中央機関の働きも非常に重要である。実務的には中央の研究施設をサポートする団体・企業などの支援も必要となることも多い。もし中央機関の運営を行う責任者となる場合は、そのサポート団体の選定には非常な注意を払う必要がある。かなりのコストが発生するにもかかわらず、満足の行くサポートが得られない場合も散見され、その責任の所在はその団体の問題である場合のみならず、そもそも計画書の準備不足である場合もありうる。信頼できる団体と試験計画早期から十分な打合せを行うなどの工夫も必要である。
※前項の「表5 参加者の安全を確保するための対応(基礎)」
| 臨床試験における項目 | 具体的項目 | 解説 | |
| 1 | 試験計画時に行う準備 | 試験は計画書通りに行う原則がある。 (1)有害事象に対する「基本的対応方法」を予め定めておく。 (2)特に重篤な有害事象に相当するかどうかの判断時の「重篤性」には配慮する。 |
特に注意を要するのは入院について。「試験の必要性から入院が計画書に記載されているもの」以外は重篤として判定されることがほとんど。 |
| 2 | 試験開始前までに行う準備 | (1)緊急時対応方法の確認、(2)院内関係部署への周知と依頼、(3)試験実施診療科内での周知、(4)補償体制の確認と整備、(5)試験責任医師不在時などの特殊な状況を含む対応方法など細部の確認 | 表6参照 |
| 3 | 有害事象発生時に取るべき緊急対応 | (1)参加者の安全確保と治療を研究より優先させること、(2)緊急時でもできるだけ正確な情報を収集すること(特に他の医療機関に受診した場合には注意)、(3)ルールに則った報告(次項4(2)にも関連) | 表4参照 |
| 4 | 有害事象発生時に求められる待機的対応(事務対応など) | (1)判断:(a)重篤・非重篤の判断、(b)試験薬との因果関係の判断、(c)未知・既知の判断、および予測可能性の判断、(d)有害事象の種類・程度などの判断 (2)報告:速やかに提出する報告書、追って提出する詳細な報告書 |
表3、表4も参照 |
| 5 | 試験開始後に行う継続的・予防的努力 | (1)自施設からの情報報告、(2)他施設(中央)からもたらされる情報判断(自施設の倫理委員会や施設責任者=病院長などへの報告を含む)、(3)試験参加者への報告や必要に応じて倫理委員会命令などにより再同意取得など | 治験や他機関が責任機関である場合は、大量の情報がもたらされるので、それを判断して適正に処理する責任が責任医師にあり。自主研究なら自らが情報収集する必要がある。 |
※前項の「表6 特に重要な表5の項目2の詳細」
| 1 | 緊急時対応方法の確認 | 治験などと自主研究では少し異なることもあるが、単純に参加者の安全について良く考えること。 | 治験では依頼者が規定していることが多い。自主研究では十分に安全確保のためにできることを考えた上で、内容を計画書に記載。 |
| 2 | 院内関係部署への周知と依頼 | 参加者死亡という本当に緊急事態を想定した上で、実務的な「流れ」を現実的に想像して、当該実施機関での対応をイメージ・対応すること。 | 実務的にはこの項目が非常に重要。 |
| 3 | 試験実施診療科内での周知 | (1)臨床試験を実施していること、(2)試験内容、(3)緊急時に使用しやすい対応マニュアルの作成と設置・設置場所の周知、(4)基本的な緊急時治療方法など、(5)責任医師不在時の対応方法 | これらの項目を診療科内で十分に共有すること。(4)は患者の安全優先、早期の責任医師への連絡、緊急時の試験担当医への連絡先、安全のための併用禁止薬情報を含む。(4)(5)などは対応マニュアルへの記載が望ましい。 |
| 4 | 補償体制の確認と整備 | 自主研究の場合は補償を無条件に行う責任が発生することを前提として準備する。保険などに加入する必要がある場合もある。 | 治験では依頼者が対応することが多いが、自主研究ではそれを責任医師が担当することを自覚すること。 |
| 5 | 試験責任医師不在時などの特殊な状況を含む対応方法など細部の確認 | (1)責任医師にはある程度の時間的余裕がある人が成らねばならない規程あり。(2)責任医師出張中などの対応を予め考慮。 | 一定の期日までに対応しなければならない責任があるため、十分に注意。それでもどうしても出張などが想定されることも多いので、分担医師にも責任医師の責務について理解しておいてもらう必要がある。 |