保険医療機関および保険医が行う「保険診療」では、その内容は保険医療機関及び保険医療養担当規則その他の関係法令により厳格に規律されている。とりわけ、保険診療と保険外診療(自由診療)を同一の診療過程で併用する、いわゆる「混合診療」は原則として禁止されている。
この原則は、「国民皆保険」の理念のもと、有効性および安全性が確認された医療を保険給付の対象とすることで、患者負担の不当な拡大を防止するとともに、科学的根拠に乏しい医療の無秩序な拡大を抑制することを目的としている。仮に混合診療が行われた場合には、当該診療行為は保険給付の対象外とされ、当該診療に係る一連の医療行為全体が自由診療として取り扱われ、結果として、保険適用部分を含めた全額が自己負担となる。
また、一定の例外が設けられており、それが健康保険法第86条(保険外併用療養費)および関係法令に基づく「保険外併用療養費制度」である。本制度は、将来的な保険収載を目指す先進的な医療や治験、患者の選択に基づく付加的サービスについて、一定の要件のもとで保険診療との併用を認めるものである。これにより、保険適用部分については従来どおり保険給付が行われ、保険外部分のみが患者の全額自己負担となる仕組みが採られている。
保険外併用療養費制度は、大きく三類型に分類される。
第一に「評価療養」である。これは、将来的な保険収載を前提として、有効性および安全性の評価を行う段階にある医療を対象とするものであり、厚生労働大臣の定める基準に基づき、一定の公的評価の枠組みの下で実施される。具体的には、先進医療(先進医療A・B)や治験に係る診療、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法)に基づく承認前の医薬品・医療機器の使用などが含まれる。これらは科学的根拠の確立を目的として実施され、その評価結果を踏まえて将来的な保険導入の可否が検討される点に特徴がある。
第二に「選定療養」である。これは、患者の選択に基づく付加的サービスに該当する医療であり、必ずしも医学的必要性に基づくものではないが、患者の利便性や快適性の向上などの観点から提供されるものである。代表的なものとしては、差額ベッド料(特別療養環境室料)、予約診療、時間外診療、紹介状なしでの大病院受診時の定額負担などが挙げられる。これらは医療の質そのものに直接影響するものではなく、保険給付の対象外として位置づけられたサービスであり、その費用は患者の自己負担とされる。
第三に「患者申出療養」である。これは、患者からの申出を起点として、国内未承認の医薬品や医療技術などの使用を個別に認める制度であり、平成28年の制度創設により導入された。患者の治療選択の幅を広げることを目的としつつ、実施にあたっては臨床研究中核病院などにおける審査や安全性の確認など、厳格な手続が求められる。また、実施された医療の内容や結果は体系的に集積され、将来的な保険収載や制度改善に資するデータとして活用される点に特徴がある。
このように三類型はそれぞれ、①将来的な保険導入を見据えた評価(評価療養)、②患者の選択に基づく付加的サービス(選定療養)、③個別ニーズに対応した例外的医療の実施(患者申出療養)という異なる役割を担っている。すなわち、保険診療の枠組みを維持しつつ多様な医療ニーズに対応する制度的基盤を形成するものである。
以上のように、保険外併用療養費制度は、混合診療の原則禁止を維持しつつ、医療の進歩および多様な患者ニーズに対応するための調整的仕組みとして位置づけられる。すなわち、「国民皆保険」の下で必要かつ適切な医療を広く保障しながら、医療技術の評価・導入および患者の選択の尊重を図る制度的枠組みである。
最後になるが令和7年7月9日に厚生労働省から「未承認又は適応外の医薬品等を用いる特定臨床研究における保険診療について」という通知が発出された。この通知によると、「未承認又は適応外の医薬品等を用いる特定臨床研究を実施する際には、全て保険外診療として行うか、先進医療等の保険外併用療養費制度の枠組みで行っていただく必要がある。」とされているので、今後読者が特定臨床研究を計画される場合にはこの通知を順守する必要がある。
参考文献(法令・厚労省資料)
(参考1)厚生労働省ホームページ「我が国の医療保険について」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/iryouhoken01/index.html(最終アクセス:2026年3月20日)
(参考2)日本医師会ホームページ「世界に誇れる日本の医療保険制度」https://www.med.or.jp/people/info/kaifo/(最終アクセス:2026年3月20日)
・健康保険法(大正11年法律第70号)
・国民健康保険法(昭和33年法律第192号)
・保険医療機関及び保険医療養担当規則(昭和32年厚生省令第15号)
・高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号)
・厚生労働省発「未承認又は適応外の医薬品等を用いる特定臨床研究における保険診療について」(令和7年7月9日)