本稿では、厚生労働省・PMDAによる医薬品等の承認審査の流れ、臨床試験と厚生・薬事行政の関わりについて説明する。
第3章 臨床研究に関わる法規制、指針等
3 医薬品等の承認システム(厚労省、PMDA)
小野 俊介
1. 医薬品等の製造販売承認
医薬品等(再生医療等製品を含む。)を業として製造販売する者(製薬企業)は,事前に厚生労働大臣の承認を受けなければならない。承認取得のため、製薬企業は審査に必要な資料(試験結果等)を提出する。申請に必要な資料の種類・区分はCTD(Common Technical Document)という形で世界の主要国でほぼ共通化されている。治験の結果(総括報告書等)もCTDの中に位置付けられる。
「その薬の何が新しいのか」という観点から新薬は表3-3-1のとおり分類され、その位置づけによって提出が求められる資料の種類・範囲が異なる。バイオ後続品や後発医薬品はこれらとは別に位置づけられる。
表3-3-1 新医薬品(医療用医薬品)の分類.
| 新有効成分含有医薬品 新有効成分を含有する医薬品 |
| 新医療用配合剤 既承認配合剤と有効成分・配合割合が異なる配合剤 |
| 新投与経路医薬品 既承認医薬品と投与経路が異なる医薬品 |
| 新効能医薬品 既承認医薬品と効能・効果が異なる医薬品 |
| 新剤形医薬品 徐放化等による新たな剤形の医薬品 |
| 新用量医薬品 既承認医薬品と用量が異なる医薬品 |
| その他の新医薬品 再審査期間中の剤形追加に係る医薬品等 |
どのような新薬が承認されうるか(承認要件)について、薬機法(第14条)では、1) 有効性が認められること、2) リスクベネフィットのバランスが許容されること、3) 品質に問題がないこと、などの条件を全て満たすものとされる。
新薬の承認審査では、申請された申請企業が提案した薬剤等の使用方法(用法・用量、効能・効果など)に基づく新薬の有効性・安全性プロファイルが承認要件を満たすかどうかを、提出された一連の臨床試験の結果等に基づいて評価・確認する。すなわち、「承認審査のために十分な資料が提出されたか」についても承認要件の事実上の一部となる。
従来、米国の新薬の承認申請に際しては、有効性・安全性を複数(2本以上)の検証試験(第3相ランダム化比較試験等のいわゆる「ピボタル試験」)で示すことが必要(米国薬事法上の要件)と解釈されてきた。日本ではそのような直接的な解釈は行われていないが、PMDAの審査ガイドライン等では有効性に関する複数の「根拠」を求めることが一般的である。
ただし、新薬グローバル開発の一般化や薬剤モード(作用機序)の多様化に伴う薬効評価の方法の多様化に伴い、「どの集団(地域・人種、患者層等)を対象にした、どのようなデザインの試験が、どのくらい(質と数)あれば、どの国(jurisdiction)の新薬承認の要件の充足判断を支える根拠となりうるか」は現在世界各国で大きく揺れ動いている状況にある。
2. 新薬の承認審査プロセス
承認審査の具体的な流れを図3-3-1に示す。
図3-3-1 医薬品の承認審査プロセス.
(PMDAウェブサイト https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/0001.htmlより)
様々な領域の専門職員からなるPMDAの審査チームは、提出された資料に基づき、新薬が薬機法の承認要件を充足するかについて、有効性・安全性・品質・製造方法等の様々な角度から検討する。外部の専門家(医学・薬学専門家等)も必要に応じて検討に加わる(審査専門協議)。
検討の根拠となる提出資料の信頼性についても書面上または実地で確認する。治験がGCP遵守の下で行われたかを確認するGCP調査(適合性書面調査、医療機関等での実地調査)も必要に応じて実施される。品質・製造方法等についてはGMP調査で、毒性試験(非臨床試験)等についてはGLP調査で、それぞれの基準・ガイドラインへの適合性が確認される。申請企業との対面での議論が必要と判断される場合には面接審査会が開かれることもある。
PMDAの審査結果に基づき、薬事審議会(医学・薬学・獣医学・統計学等の専門家から構成される厚生労働省の審議会)での審議がなされ、その答申に基づいて厚生労働大臣が承認の可否を決定する。審査の結果は審査報告書としてまとめられ、承認後、PMDAホームページで公開される。
3.厚生労働省
厚生労働省設置法等に基づき、厚生労働省のいくつかの部局が臨床試験・研究の指導・監督・推進等を担当する。案件によっては複数の部局が関係する。
医薬局(医薬品審査管理課、医療機器審査管理課)は、主に薬機法に基づく医薬品等の製造販売承認や安全対策などを所管する。新薬開発に関する法規制・ガイドライン(例:GCP)の発出、治験などに関する施策を担当する。
医政局(研究開発政策課)は、広く医薬品等の研究開発支援、臨床研究・治験実施体制の整備・活性化などの施策を行う。再生医療等の安全性の確保等も担当する。
保険局(医療課)は、将来的な保険適用を検討する先進医療における臨床研究の実施などを担当する。先進医療の結果は薬機法における承認申請につながる可能性がある。
4.医薬品医療機器総合機構(PMDA)
医薬品等の承認審査を行う医薬品医療機器総合機構(Pharmaceuticals and Medical Devices Agency:PMDA)は、法律に基づいて設置・運営される独立行政法人である。
PMDAの業務は、健康被害救済業務、審査関連業務、安全対策業務の3つに大きく分けられる。健康被害救済業務としては、医薬品の副作用等による健康被害に対する医療費等の給付を行う。審査関連業務としては、薬機法に基づく医薬品等の承認審査、治験等に関する指導・対面助言、GCP等の基準への適合性の調査等を行う。安全対策業務としては、医薬品等の品質・安全性に関する情報の収集・分析、必要な情報提供を行う。PMDAはこれらの業務を厚生労働省の担当部局と協力して実施する。
治験に直接関連する業務として、PMDAは、薬機法で義務付けられている治験計画の届出、治験中の副作用等報告等を受け付ける。国内の治験審査委員会の登録情報、十分な既存治療がない重篤な疾患治療への人道的見地からの未承認薬等の提供に関する情報(「主たる治験」に関する情報)をホームページで公開するなどの業務も行う。
5.PMDAの相談制度(治験相談など)
PMDAは、製薬企業や治験を実施しようとする医師からの申し込みに応じて,医薬品等の治験について指導・助言を行う(治験相談)。治験相談では、治験の倫理性、科学性、信頼性、被験者の安全性等を考慮し、適切な治験の実施についてアドバイスを行うとともに、将来の新薬等の承認申請の要件についても検討される。臨床領域の問題のみならず,試験薬の品質や非臨床試験(安全性試験等)についても指導・助言を受けることができる。
主に大学・研究機関・ベンチャー企業を対象としたレギュラトリーサイエンス総合・戦略相談も行っている。この相談では、医薬品等の開発候補選定の最終段階から、主に臨床開発初期(POC(Proof of Concept)試験(前期第2相試験程度))までの試験計画策定等に関する指導・助言を行う。
6.医薬品規制調和国際会議(ICH)とICHガイドライン
医薬品規制調和国際会議(International Council for Harmonization of Technical Requirements for Pharmaceuticals for Human Use : ICH)は、世界の規制当局と製薬業界の代表者が協働して、医薬品規制に関するガイドラインを科学的・技術的な観点から作成する国際会議である。資源を有効に活用しつつ、安全性・有効性・品質の高い医薬品が確実に開発、上市されるよう、より広範な規制の世界的な調和を目指すことを目的とする。1990年の創設以来、構成メンバー(メンバー25団体、オブザーバー41団体(2025年時点))は大きく増え、組織体制も改編された。
ICHガイドラインは、品質(quality)、安全性(safety)、有効性(efficacy)、複合領域(multidisciplinary)の4つの領域のいずれかのトピックとして通常数年間にわたって検討がなされる。個々のガイドラインはICHにおいて最終採択された後、規制当局による法整備等が行われ、各国で実施・運用されることになる。
日本のGCP省令は、E6ガイドラインの内容を踏まえて1997年に施行された。E6ガイドラインはその後、2016年にリスクに基づく品質管理システム(quality management system)の考え方の導入、電子データの信頼性確保等、2025年には品質の作り込み (quality by design)、デジタルトランスフォーメーション (DX) への対応等に関する大きな変更が加えられた。日本のGCP省令・関連通知もそうした変更を反映する形で随時改訂されてきた。
有効性領域のICHガイドラインはそのほぼ全てが臨床開発・試験の計画・実施・解析・解釈と深くかかわる。新薬の臨床開発で頻繁に引用されるガイドラインの例を表3-2に示す。新たにE20(臨床試験のためのアダプティブデザイン)、E23(規制におけるリアルワールドエビデンスの使用)等のガイドラインも検討段階にある(2025年時点)。
表3-2 臨床試験の計画・実施・報告と関係するICHガイドラインの例
| E5 外国で実施された医薬品の臨床試験データの取扱い |
| E6 臨床試験の実施基準(GCP) |
| E8 臨床試験の一般指針 |
| E9 臨床試験のための統計的原則 |
| E10 臨床試験における対照群の選択 |
| E17 国際共同試験 |
| M3 臨床試験のための非臨床試験の実施時期 |
| M4 コモンテクニカルドキュメント(承認申請時の提出文書) |
7.未承認薬・適応外薬への対応
厚生労働省の「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」において、日本での未承認薬や未承認適応の早期承認取得をめざした対応がとられている。学会・患者団体からの要望について、既存治療の有無、海外の承認状況、薬の有効性・安全性等の観点から検討がなされ、日本での医療上の必要性が高いと判断された場合には、厚労省が製薬企業に対して開発を要請(公募)する。国内未承認薬等が既に海外で広く使われており、科学的根拠が十分であると認められる場合は、公知申請(治験を新たに実施することなく、公知の事実等に基づいて行われる承認申請)へとつながることもある。
8.医薬品等開発支援の施策
日本が新薬創出国であり続けるため、またドラッグラグの状況を改善するために、政府は様々な施策を推進している。
1) 薬事規制・審査体制の見直し
新薬等のグローバル開発が一般的なものとなった現在、PMDAは、世界の企業が日本を含む国際共同治験により参加しやすくなるための種々の対応をとっている。さらに世界に先駆けて開発される革新的な薬に対する優先的な相談・審査を行う制度(先駆け審査指定、先駆け総合評価相談)も導入された。
米国の加速承認(accelerated approval)の仕組みなどに対応して、重篤な疾患領域で既存治療よりも明らかに優れた効果が期待される新薬等に対する条件付き承認制度も薬機法上の位置付けが近年明確になった。
再審査期間(事実上の市場独占期間)の追加的な付与等により、小児や薬剤耐性(AMR)感染症等の医療ニーズが満たされていない医薬品の開発を促進するための特定用途医薬品指定制度もある。
2) リアルワールドデータの活用
電子カルテなどの診療情報(Real World Data : RWD)の承認審査での活用策も検討されている。特に希少疾病用医薬品では、レジストリーデータなどの外部対照が有効性評価に用いられた例がいくつかある。
MID-NET(Medical Information Database Network)は、PMDAが運営する日本最大級の医療情報データベースである。全国の医療機関の電子カルテ、レセプトデータを匿名化して集積し、医薬品の副作用調査や安全対策、研究に活用されている。医薬品市販後の安全性の確認だけでなく、開発段階の効率化(新薬承認における比較対照群としての活用等)も目指す。
個人情報保護法の特例法として、健診結果・カルテ等の個々人の医療情報を匿名加工し、医療分野の研究開発での活用を促進する次世代医療基盤法も整備された。
3) 臨床試験・研究実施体制の整備
医療法に基づき、質の高い臨床研究を牽引する臨床研究中核病院が指定されている(16施設(2026年時点))。国際水準の臨床研究や医師主導治験を自ら実施するだけでなく、他の施設の臨床研究も支援するハブ機能を担う。中核病院等が中心となり、地域の基幹病院や専門クリニックと連携し、迅速に被験者を集められる体制(臨床研究ネットワーク)も日本各地で整備されている。
4) スタートアップ・アカデミアへの支援
いわゆる「創薬エコシステム」の強化のため、国・公的機関(AMED・経産省・厚労省)によるスタートアップへの支援が様々な形で行われている。革新的医薬品等実用化支援基金を介した支援スキームも実施されている。
5) 薬価制度における新薬研究開発支援の仕組み
医療保険における新薬研究開発への配慮として、革新的新薬薬価維持制度が組み込まれている。通常は新薬の薬価は市場の実勢価格に合わせて引き下げられるが、この制度の対象の新薬は一定期間薬価が実質的に維持される。有用性が高い新薬の薬価に画期性加算、有用性加算などを上乗せする仕組みも長く運用されている。
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