第4章 関連事項 
2 薬理ゲノミクス 
2-1 薬理ゲノミクスとは 
家入 一郎

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多くの医薬品のPK/PDには大きな個人差や人種差がある。両極端な例では、常用量を投与した場合でも、著効を示す集団(レスポンダー、responder)がある一方、ほとんど効果を示さない集団(ノンレスポンダー、non-responder)が挙げられる。さらに、薬物投与後の有害事象(副作用)についても同様で、軽微なものから重篤なものまでを経験する。

これらは、薬物療法を行う上で解決しなければならない重要な課題であり、薬物を投与する前に有効で安全な薬物療法、すなわち、テイラーメイド医療の確立に繋がる。医薬品のPK/PDに影響する分子をコードする遺伝子の多型を始め、環境要因を含めた諸情報から各患者の医薬品の作用・副作用を投与前に予想し、適切な治療方針の決定や薬物選択を目指す。

遺伝子解析技術の進歩と遺伝子情報の蓄積により、PK/PDに見る大きな個人差を説明する遺伝的背景を網羅的に理解する薬理ゲノミクスという概念が展開されるに至った。薬理ゲノミクスは、レスポンダーとノンレスポンダーの識別、重篤な副作用の予測による回避、遺伝子情報と疾患の関連解明による治療方針の確立を可能とする(図4-2-2-1)。

 

図4-2-2-1 薬理ゲノミクスの広がり.

 

薬理ゲノミクス展開当初は、ゲノムDNA上の多型、すなわち、塩基配列の変化をターゲットにした解析が主流であった。しかし、遺伝子発現機序には塩基配列の変化を伴わないメカニズムが知られている。具体的には、DNAメチル化、ヒストン修飾、RNA制御などがあり、多岐に渡る。これらはエピジェネティクス機構と呼ばれ、重要な機構である。

近年のがん治療は、さまざまな機序に基づいた精密化、個別化が進み、多くのがん種で生存期間の延長が期待されている。効果的な分子標的薬や免疫療法の導入が背景にあるが、適正な治療には、がんの原因となる特定の遺伝子変異に基づいた診断や治療が必要であり、がんゲノム医療として確立されつつある。

コンパニオン診断薬が良く知られる例であるが、効果や副作用予測、治療計画の立案に活用される。がん組織(バイオプシー)や血液(リキッドバイオプシー)を試料とし、体細胞遺伝子変異を取り扱う。PK/PDに関連する遺伝子変異が生殖細胞遺伝子を中心として取り扱うことから、がんゲノム医療を薬理ゲノミクスの範疇に加えることには議論があるが、今後もゲノム科学は広がり続けると考えられる。

     

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