第4章 関連事項 
2 薬理ゲノミクス 
2-4 臨床開発での応用とテイラーメイド医療 
家入 一郎

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1) 臨床開発での応用

医薬品開発への薬理ゲノミクスの成果は、抗体医薬(antibody drug)、アンチセンス医薬品(antisense drugs)、分子標的薬(molecular targeted drug)の開発に繋がるといえる。

 プロ蛋白転換酵素サブチリシン/ケキシン 9 型(PCSK9)は肝細胞で合成される蛋白で、高 LDLコレステロール血症家系のゲノム解析から遺伝子が同定された4)。PCSK9は肝臓において低比重リポ蛋白(low density lipoprotein : LDL)受容体の分解を促進することで受容体数を減少させ、血中LDLコレステロール値を増加させる。抗PCSK9モノクローナル抗体は、LDL受容体の分解を抑制し、LDL受容体のリサイクリングを増加することで血中LDLコレステロール値を低下させる。骨粗鬆症治療薬である抗RANKL抗体薬も遺伝子情報に基づいた抗体医薬品である。

 アンチセンス医薬品は、特定の遺伝子のmRNAや前駆体と結合し、その機能を止めることで効果を発揮する。この結合は、アンチセンス医薬品の塩基配列が標的RNAと相補的であることが必須となる。脊髄性筋萎縮症治療薬であるヌシネルセンやデュシェンヌ型筋ジストロフィー治療薬ビルトラルセンが臨床で使用されている。

 薬理ゲノミクスは、医薬品に対するレスポンダーとノンレスポンダーの判別を可能にする。薬物代謝酵素の中で、CYPは多くの医薬品の代謝に重要な役割を果たす。種々の分子種が存在するが、CYP2D6には遺伝的代謝多型が存在する。100以上の遺伝子変異が知られており、遺伝子型によりPM(poor metabolizer : 代謝酵素欠損型)、IM(intermediate metabolizer : 中間型)、EM(extensive metabolizer : 正常型)、UM(ultrarapid metabolizer : 代謝酵素過剰型)の表現型に分類される。同量のCYP2D6基質薬物を投与しても、PMでは代謝酵素が欠損するため、強力で、長時間の薬理作用(同時に副作用も懸念される)が期待される。一方、UMでは代謝酵素が過剰産生されるため、弱い薬理作用が予想される。治験も含めた臨床試験を実施するに当たり、遺伝子型で層別した被検者の選択は、試験結果の精度を左右する。

 

2) テイラーメイド医療

前述のように、遺伝的背景や環境要因を考慮し、安全で効果的な薬物療法の個別適正化をテイラーメイド医療と呼ぶが、臨床現場においては、幾つかの薬物・疾患で導入されている。一部を記載する。

・UDPグルクロン酸転移酵素遺伝子多型:塩酸イリノテカンの投与量設定を目的とする。
・CYP2D6遺伝子検査:ゴーシェ病経口治療薬エリグルスタット酒石酸塩の投与可否判定や投与量設定を目的とする。
・CYP2C19遺伝検査:二次性進行型多発性硬化症患者に対するシポニモドフマル酸の投与可否判定や投与量設定を目的とする。
・CYP2C9遺伝子検査:フェニトイン、ワーファリン、トルブタミドなどの用法・用量を設定する。
・SLCO1B1遺伝子検査:スタチンやレパグリニドの用量を設定する。

以上のように、多くのPK関連遺伝子多型が対象となるが、PK/PDについての情報が整備されていることがその背景にある。

 

文献

4) M Abifadel, M Varret, JP Rabès, et al. Mutations in PCSK9 cause autosomal dominant hypercholesterolemia. Nat Genet 34(2) : 154-156, 2003

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