序章 クリニカルクエスチョンに基づく臨床試験の考えかた・進めかた 
小林 真一

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皆さんは日常の診療において、一般的な治療薬が効かない患者や、さまざまな合併症を持つ患者に対する薬物治療はどうすべきかなど、 さまざまな問題(クリニカルクエスチョン)に常に直面していると思う。このような場合、文献を調査し、インターネットや製薬企業を通して必要な情報を得て対応しているのではないだろうか。 ただ、情報がない、あるいは古い場合や、所属する医療現場などで新しい治療法を検討している場合などは、さまざまな臨床研究を行い、 その妥当性を確かめる必要がある。

 

しかしながら、臨床研究を実際に自分で行うとなると、クリニカルクエスチョンをどのようにリサーチクエスチョンとして科学的・倫理的に組み立て、 信頼性のあるデータを得ることができるか、そのためにどのような方法があるか、倫理的かつルールに則った配慮が必要であるかなどは、 多くの研究者が悩むところである。また、現実には臨床研究の経験者もいれば、初めてトライしようとしている未経験者もいるのが現実である。

 

本コンテンツは初心者~中級者を主な対象者としているが、経験豊富な上級者であっても改訂された新しい情報を知らずに基本的なルールを逸脱してしまうことがあるため、全ての医療関係者(医師、薬剤師、看護師など)にとって非常に重要である。また、より多くの医療関係者が日常の臨床で持つクリニカルクエスチョンを(できれば自分で)解決し、 医療を進歩させるためのエビデンスをつくるために、多種多様な研究法、倫理的規範、法規などのルールの原則などを知り、 実際に研究方法(リサーチクエスチョン)を考える時に役立つ基本的知識として提供するものである。

それでは臨床研究を組み立てて行こう。

 

①まず初めに、臨床研究を実施するには、臨床研究の実施に至る「背景」、 その臨床研究の「目的」を明確にすべきである。なぜなら人を対象とする臨床研究を行うためには昔のように 「人体実験」といわれないための一般原則があるからである。その一般原則は「研究目的」「研究方法」が適正で、「倫理委員会承認」「同意取得」を得ていることの4つのみである。最近は「研究機関長の許可」が原則となった。また、研究の概要を構成する上で、よく考えられているのがPICO(ピコ)PECO(ペコ)の概念である。 「PICOのPはどのような研究参加者(対象患者、被験者)で、I・Eはどのような研究方法(介入方法観察方法)で、 Cは何と比べて(対照群、他の治療法、プラセボなど)、Oはどのような指標項目で評価するか」ということを考えてプロトコール (研究計画書)の骨子を考える。

 

②PICO、PECO最初のP(研究対象者、研究参加者)はどのように選ぶか、研究に参加してもらう患者をどのように対象者、 参加者として定義するかは、研究する疾患、重症度など多くの因子が関与する。その疾患の患者群から研究対象として適切な患者を抽出するために、 選択基準除外基準をできるだけ正確(診断基準、検査値等)に決め、規定することが必要である。これは研究成果を(より多くの) 患者に外挿できるようにする(外的バイアスの除去)ためである。

 

③次に研究方法研究デザインである。例えばA群、B群で薬効を比較検討する場合(二群比較試験)、AとB群の間で薬効評価する場合、 患者群に病態、治療法などの偏り(バイアス)があるとその影響で適正に薬効を評価できない。そこで、その偏りを最小限にするために両群の患者についてランダム割付(内的バイアスの除去)を行う。

 

④さらに、PICO、PECOのOである重要な研究の目的(仮説)を検討するためのエンドポイントを決めなくてはならない。 エンドポイントは当該研究でもっとも検討すべき点であり、 できるだけ具体的項目であるほうがよい。もっとも研究結果に重要なエンドポイントを主要評価項目(プライマリーエンドポイント)、 その他に必要な評価項目を副次的評価項目(セカンダリーエンドポイント)として決め、これらの評価項目の解析により研究結果を判断する。

 

⑤また、研究する薬物(試験薬物)の試験期間(治療期間)、投与量など投与方法を考えることも必要である。 さらに、自覚症状、自然治癒力などが客観的な指標に影響を与えることを除去するため対照群にプラセボ投与が設定されることもあり、 同時に研究者、研究参加者とも盲検(マスク)化して、二重盲検試験を実施することもある。

 

⑥このように試験薬、プラセボなどを盲検化して各群に試験計画通り一定期間投与して試験薬の有効性、 安全性などを検討する試験を二重盲検プラセボ対照比較試験と呼ぶ。 その他にも通常治療の結果を診療録から抽出して後ろ向きに検討する観察研究など、 臨床研究の種類や方法は多くのものがあるので適切に選択すべきである。

 

⑦臨床試験実施前の試験計画書作成時に決めておかなくてならない作業に、試験結果の解析方法がある。 生物統計の専門知識は専門家に相談することをすすめるため、 本コンテンツには生物統計専門家からの解説も加えている。 少なくとも研究に必要な症例数、研究データ、成績の統計解析方法、また検証的試験を計画する前の基礎データを集める探索的 (パイロット)試験か、研究の実施可能性を調べるフィージビリティ試験かなどを決めてから生物統計家には相談することをすすめる。

 

⑧臨床研究を科学的に計画するために試験薬の薬理作用薬物動態、さらに個体差民族差、最近では薬理ゲノミクスの知識も必要であることがある。

 

臨床研究計画書(プロトコール)の作成と同時に研究参加者へのインフォームドコンセント(同意説明文、同意書)の作成、またはその例外としてのオプトアウトの適正な実施方法、理解も観察研究、生体サンプルの提供などの研究では必須である。さらに、倫理委員会への申請資料としては個人情報保護法の改定により研究参加者の個人情報などは要配慮個人情報(原則、文書同意)となり、その対応も必要となった。また研究参加者の健康被害への対応として補償などの対応も必要である。

 

倫理委員会の承認は必須であり、その後、臨床研究法により試験実施前に研究機関(病院長)の許可も必須となった。 特定臨床研究の場合は臨床研究の事前登録が必要になり臨床研究の実施、報告、終了まで記録管理されることになった。

 

⑪さらに臨床研究の実施に必要な研究費を産学連携によって企業から得ることは多くあるが、 その場合、利益相反(Conflict of Interest : COI)状態を管理するため事前に利益相反委員会への情報開示も必要である。

 

⑫これらの臨床研究の実施に必要ないろいろな必要書類を作成し倫理委員会の承認、研究機関長(病院長)からの実施許可を得て、 事前登録を行い、研究参加者からの同意取得が完了したところで、いよいよ研究のスタートとなる。 研究開始後は臨床研究が計画書通りに実施されているかの品質管理(モニタリング)品質保証(監査)が行われる。 臨床研究はこれら多くの業務を各部署と行い、さらに研究参加者(患者)への対応、研究に伴う各種検査を計画通り実施するためには研究者 (医師等)のみでは極めて困難な現実があり、これらを支援する専門職が臨床研究コーディネータ(clinical research coordinator : CRC) である。実際これら以外にも、データマネジャー(Data Manager : DM)、プロジェクトマネジャー(Project Manager :PM)など、多くの業務分担者が関与して臨床研究は成り立っている。

 
本コンテンツは、まずこの「序章」を読んでいただき、その後、自分の必要な記載(青字下線文字のリンク先)に飛んで読んでいただくとともに、 本分野の歴史から始まる臨床研究全体の基礎知識も得ていただきたい。
 
 
臨床研究は、研究方法によりその難度も異なるが、研究参加者(人)を対象とする研究であり、歴史的には「人体実験」という負の歴史を乗り越え、倫理的には倫理委員会の承認・研究参加者からの同意取得・個人情報保護・情報公開のルールなどが作られ、科学的には多くの患者に研究成果をフィードバックするために研究の偏り(バイアス)を少なくし精度を上げることが考えられてきた。研究結果の事前登録・結果公表の出版バイアスを無くすため全てのデータの公表も始まったが、臨床研究が治験として初めて法律のもとに行われるようになった1990年代には、わが国では倫理委員会・文書同意などもまだ一般的ではなかった。 その後の数十年の間に法律・指針が整備されるとともに、医師などの研究者、製薬企業、行政など多くの分野で人々の意識が向上し、患者の治療のために医療に貢献できるエビデンスを提供する努力が重ねられ、その過程で優れた医薬品、医療機器が生まれてきたのである。 
 
 
医療の発展のためには、これからも同様の努力が必要であることを忘れてはならない。
 

小林 真一

昭和医科大学 臨床薬理研究所 所長
昭和医科大学病院 臨床研究支援センター 副センター長
昭和医科大学 統括研究推進センター 副センター長(臨床研究支援部門)

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