ノラリ・クラリ(泌尿器科医)
何かを学ぶには,自分で体験する以上に良い方法はない。
――アルベルト・アインシュタイン
第1回で述べたように,われわれは自らの感覚を通して,この世界を仮想現実として構築する。感覚器の多くは,意外にもさまざまな感覚入力を物理化学の法則を利用して電気信号に変換処理している。例えば,重力や頭の傾き,加速度を感知する三半規管(外側半規管・前半規管・後半規管が互いに直交しているので,われわれの世界は三次元となるとも言える?)や耳石器は,その仕組みに慣性の法則を利用している。運動を開始する際,有毛細胞の繊毛が慣性の法則によってリンパ液内で相対的に傾くことによって,その刺激が中枢に伝わるのである1)。すなわち,重力という物理現象を感知するために,感覚器は慣性の法則という物理法則で処理しているのである。天才が発見した物理法則は,すでにわれわれの感覚器や体内に内包されている。実に不思議なアナロジーである。