ロボット手術はなぜすごい──泌尿器科医が考える手術と脳科学

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執筆:ノラリ・クラリ(泌尿器科医)

【月曜更新】私が泌尿器科医になった30年以上前は,手術のほとんどはお腹を大きく切開して,腎臓や膀胱のがんの手術をしていた。内視鏡の手術は,硬くて太い内視鏡が尿道からかろうじて挿入できる,小さな膀胱腫瘍や前立腺肥大症の手術に限られていた。前立腺がんの手術はまだ外科解剖が明らかでなかった日本ではほとんど行われていなかった。ボンクラな私は,泌尿器科医になったばかりとはいえ,現在のような内視鏡でロボットの助けを借りて,繊細かつ高度な手術ができるようになるとは,当時は想像すらできなかったのである。

このロボット支援下手術によって,骨盤の奥深くであろうが,臓器と臓器の隙間のような狭い場所であっても,内視鏡にて直視下に,人間の手や指より器用に手術器具を操ることができ,出血もほとんどなく,美しく無駄のない手術が提供できるようなった。手術は劇的に変化してしまったのである。

一方,手術は進歩する医療機器やロボットの助けを借りるとはいえ,基本は外科医の腕や技術による,と考えられてはいる。本連載では,外科医がいかにして手術技術を習得してきたか,訓練や教育がどのように変化してきたか,やはり最近,大きく発展している脳科学の知見から解剖してみようと思う。それとともに,なぜロボット手術が優れているのかを示したい。

 

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第1回 仮想現実の世界 
第2回 ひらめきか?直感か?
第3回 ダヴィンチの感覚(質感の記憶):見ることによって触感がわかる?
第4回 ダヴィンチの意識
第5回 道具を持ったコビト
第6回 尿もれゼロを目指して
第7回 ものまねニューロン
第8回 己六才より物の形状を写すの癖あり
第9回 鉄は熱いうちに打て
第10回 手術はアルゴリズムである 
第11回 量は質を凌駕する 
第12回 記憶は重要ですよ
第13回 外科医の哲学は再現性
第14回 ひらめきのカラクリ
第15回 天才は記憶の重要性を知っている
第16回 あなたの脳が何でもうまくやってくれる
第17回 集中しすぎないこと
第18回 何かを考えるということはどういうことか?
第19回 記憶の分類と質感の記憶
第20回 触ることなくモノの形状や質感を見抜く
第21回 感覚を通して体験することの重要性について
第22回 ロボット支援手術とは
第23回 ダヴィンチの長所と欠点
第24回 なぜ,あなたの名はダヴィンチ?
第25回 AI(人工知能)とNI(天然知能)
第26回 記憶の形成
第27回 物理の法則と手術の法則
第28回 アサリの紋様とパターン認識
第29回 パターン認識とパターン信号

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