2.目指す方向性:合理的薬物治療
臨床薬理学が究極的に目指しているのは「合理的薬物治療の確立」である。これは、科学的な裏付け(エビデンス)に基づいて、薬物療法の有効性と安全性を最大限に高めることを意味している。 この目標を達成するために、臨床薬理学は医療の基本構造である「サイエンス」と「アート」の調和を目指している。ハードな存在である「薬物」を科学的に評価して信頼できるエビデンスを創り出す「標準化」というサイエンスの側面と、ソフトな存在である「人間」(患者と医療者)の間の信頼関係を基盤にして、患者一人ひとりに最適の治療を提供するための「個別化」の側面がある。これらが車の両輪としてバランスよく機能して初めて、患者の「いのち」を支える質の高い薬物療法が実現する。また、新しい薬を生み出す「創薬」から、発売後に医療現場で薬を育てていく「育薬」に至るまで一貫した社会的な使命を担っている。
3.医薬品の有効性と安全性の科学的評価
新しい化学物質が本当に薬として有効であり、かつ安全であるかを科学的に実証するためには、実際に人間を対象とした臨床試験(治験)が不可欠である。臨床薬理学は人間を対象とするため、世界医師会の「ヘルシンキ宣言」の精神を遵守し、研究参加者の保護という倫理的な配慮が必須の前提となる。
その上で、真実を明らかにするために「科学的評価の3点セット」(プラセボ対照群との比較、ランダム化、二重盲検法)が用いられる。
4.医薬品の有効かつ安全な使い方
大規模な臨床試験によって客観的なエビデンスが確立されて医薬品が「標準化」されても、目の前の患者一人ひとりの特性に応じ「個別化」して使用しなければ、本当に有効で安全な医薬品の使い方にはならない。
生体に入った薬物が吸収され、全身に分布し、代謝されて排泄されるまでの過程(薬物動態)には、人間の遺伝的体質や年齢、また肝障害や腎障害といった病態によって大きな個人差がある。そのため、標準的な投与量をそのまま適用するのではなく、患者個々の状態に合わせて投与量や投与間隔を個別化して調節する「合理的な薬物投与計画」が必要となる。例えば、血中薬物濃度を測定しながら投与量を微調整する「治療薬物モニタリング(Therapeutic Drug Monitoring:TDM)」は、個別化の重要な技術の一つである。
さらに、臨床薬理学では単なる「疾患(disease)」の治療ではなく、病を患う「病人(patient)」の全体を診る姿勢を重視している。患者の心理社会的要因を考慮し、食事や運動、生活習慣の改善といった非薬物要因への配慮をベースに据えた上で、薬物療法を治療の中に位置づけるという全人的なアプローチこそが、真の個別化医療への鍵となる。