1.臨床薬理試験
ヒトへ初めて投与を行う試験であるFIH(First in Human)試験がその代表的なものである。海外ですでにFIH試験が行われたのちに、日本で行われる試験をFirst in Japanese 試験と呼ぶこともある。その他、疾患を有した患者、高齢者などの特別な集団における薬物動態試験、薬物相互作用試験、薬物動態-薬力学試験、早期探索型臨床試験、QT/QTc評価試験なども含まれる。
1)ヒトへ初めての投与
伝統的な第Ⅰ相試験は治験薬を初めてヒトに投与するものであり、その目的として、安全性および忍容性の推測、薬物動態の評価、可能であれば薬力学的な評価、初期の薬効評価などがある。健康成人または軽症の患者を対象とする。まず単回投与試験で安全性と治験薬の特徴を確認し、単回投与試験終了後に反復投与試験を行う。単回投与試験で得られる情報は、有害反応や場合によっては薬効出現の用量反応性、薬物動態の特徴と線型性などである。反復投与試験では、予想臨床用量を中心用量とした数ステップでの検討を行う。反復投与した場合の安全性プロフィールが単回投与時と変化はないか、薬物動態の変化、特に蓄積性に注目する。
基本的な検討事項は安全性および薬物動態である。薬物動態の検討は臨床試験の全ての段階で行われるが、最も詳細な検討を行うのがこの段階である。薬物の血中濃度、尿中排泄を経時的に測定し、吸収、分布、代謝、排泄の特徴を評価する。バイオマーカーを用いた薬理作用の検討が可能である治験薬については、初期の薬効判定に薬物動態-薬力学解析の手法を用いることもある。抗がん剤などの特に毒性の強いものや有害反応のリスクが高いものなど、健康人への投与に問題がある場合については、患者対象の試験を行う。患者、健康人いずれについても、この段階では被験者にとって試験参加による臨床的な利益がまったくないことから、特に安全性については慎重な配慮が必要である。
2)ヒト初回投与のために必要な情報と投与量の設定
FIH試験開始にあたって使用可能な情報は非臨床試験から得られたものに限られている。初回投与量と用量範囲の推定や有害反応をモニターするためには、少なくとも動物において薬理作用と毒性の標的臓器、用量依存性、暴露との関係などが明らかにされている必要がある。
ヒトへの初回投与量設定には、体重当たりの投与量で概略の致死量の1/600以下、最も感受性の高い動物における最大無毒性量の1/60以下、推定臨床用量の1/10以下、最小有効量の1/5以下などが経験的に用いられてきた。しかし、FDA(Food and Drug Administration)の現行ガイドラインでは体表面積で換算することを推奨している。動物種ごとの体表面積による換算係数を用いてNOAEL(Non Observed Adverse Effect Level)のヒト相当用量(Human Equivalent Dose : HED)を求め、適切と考えられる安全係数を用いて最小推奨初回投与量(Minimum Recommended Starting Dose : MRSD)を求める。安全係数は薬物の種類・特徴によって決定されるが、1/10が一つの目安である。
治験薬の薬理作用が過剰発現したことにより、被験者全員がサイトカインストームを発症したTGN1412事件の反省から、予想最小生物学的作用レベル(Minimum Anticipated Biological Effect Level : MABEL)という考え方も導入されてきた。
これは、薬理作用を発揮する用量より十分低いレベルからヒトへの投与を開始するためのものである。MABELはヒト受容体結合率や細胞の反応性の用量反応曲線の底の部分に到達する用量レベルとして求めることができる。特にヒトに特異性が高い蛋白製剤などに対する重要なアプローチである。
3)FIHの試験デザイン
単回投与試験では、1用量当たり6~10例程度への投与を行い、その安全性を確認しながら次の用量群へ移していく用量漸増試験(SAD[Single Ascending Dose]試験)が一般的に行われている。また、経口投与の薬物の場合には、単回投与試験で薬物動態への食事の影響が検討されることが多い。ヒトにおけるデータがない状態で作成する試験計画であるため、安全性に特に配慮したものであることが重要であるが、一方で試験施行中にも用量設定、安全性評価項目について変更追加の必要性が生じる可能性は高く、あらかじめ種々の状況を想定した柔軟な体制を構築すべきである。
2.早期探索的臨床試験
マイクロドーズ臨床試験をはじめとする早期探索的臨床試験も実施されている。効率の良い開発のために、伝統的なFIH試験より前の時点で、FIH試験に必要とされている非臨床試験より少ないデータを根拠に、きわめて低用量(100μg以下)をヒトに投与し化合物を選択する試験がマイクロドーズ臨床試験である。また、米国で始まった探索型IND(Investigational New Drug)試験も、限られた非臨床試験データから、単回投与および反復投与時の薬効を探索するものである。いずれも、典型的な第Ⅰ相試験の前に行われるものであり、ヒトへの初めての投与となる。基本的に治療を目的とせず、忍容性を求める試験ではない。薬物動態や薬力学に関するさまざまなパラメータ、またPET(Positron Emission Tomography)リガンドの受容体への結合や置換、その他の診断的手法などのバイオマーカーを用いた検討が行われる。