第1章 臨床試験の基礎知識とそのポイント 
7 研究デザイン 
7-1 臨床研究デザインの基本 
志賀 剛

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1.研究の目的を明確にする

臨床研究を行う上で、最も重要なことは、何をみたいかという研究の目的を明確にすることである。しばしば、臨床研究で最大のリスクとなる失敗要因は、「研究の目的がはっきりしていないこと」である。「論文を出すこと」や「試験をすること」自体が目的になってはいけない。

研究の出発点は、日常診療の中で抱く「クリニカルクエスチョン(臨床上の疑問)」である。これを客観的に評価可能な「リサーチクエスチョン(研究上の疑問)」と昇華させ、適切な研究デザインを選択することが、科学的妥当性のある結論を創出するための唯一の道である。本稿では、研究デザインの基礎から具体的な手法、そして注意すべきバイアスまで概説する。

 

2.研究デザインの意義

エビデンスに基づく医療(Evidence-Based Medicine: EBM)は、臨床現場において不可欠な指針となっている。しかし、EBMが浸透した現在でも、臨床には依然として多くの不確実性が存在する。この不確実性を少しでも減らし、医療を良くしていくというのが臨床研究の意義であり、われわれ臨床医・研究者の役割である。そのためには、誰もが納得できる正しい結論を導き出す必要がある。その手段として、科学的妥当性が高く、バイアス(偏り)が最小限に抑えられた研究デザイン高品質なデータに基づいた精度の高い臨床研究が求められる。たとえデータが正確であっても、研究デザインの科学的妥当性が欠けていれば、明確な結論を得ることはできない。精度の高い研究を行うためには、明確な研究の目的と、それを正しく判断できる適切な研究デザインが決めてとなる。

 

3.仮説の生成と検証:段階的な研究の実施

私たちが臨床研究を行おうとする際、その研究が「仮説の生成」段階にあるのか、それとも「仮説の検証」段階にあるのかによって、採用すべき研究デザインは異なる。つまり、クリニカルクエスチョンに対し、どこまで分かっていて、どこが分かっていないかを明確にすることが重要である。特に臨床研究はヒトを対象とするため、被験者の人権を尊重することが優先であり、研究者がやりたいからやるという考えは通らない。そこには石橋をたたいて渡るくらいの理詰めが必要となる。臨床研究は、いきなり大規模な試験を行うのではなく、段階的に進めるのが基本である(図 1)。

図1 出口(エビデンス)に向かって段階的に研究を実施.

 

新たな現象や疾患の気づき、自分の発想が本当にそうなのか、ある程度目星をつけることから始める。これが仮説の生成である。なお、これを探索的研究といい、手法としては、症例報告・症例集積から観察研究、小規模前向き試験がある。ここで、既報や自分たちが行った観察研究の結果から、仮説が生成できたとする。しかし、その仮説が本当に正しいかどうかは検証が必要となってくる。これが検証的研究であり、手法として臨床試験(介入試験)あるいは臨床試験が倫理的に許容できない、稀少疾患対象などについては症例対照研究がある(図2)。

図2 仮説の生成と仮説の検証.

 

4.研究の目的

たとえ探索的研究であろうと検証的研究であろうと、研究を成功させる第一歩は、漠然としたリサーチクエスチョンを、具体的で測定可能な研究の目的にするために、PICO/PECOに落とし込むことである(図3、4)。

図3 PICO(PECO).

 


図4 リサーチクエスチョンを研究の目的(PICO)に落とし込む.

 

P (Patient / Population): どのような患者(対象疾患、重症度、年齢、性別など)を対象にするか。
I (Intervention) / E (Exposure): どのような治療、検査、介入を行うか(介入研究の場合)。または、どのようなリスク因子に曝露しているか(観察研究の場合)。
C (Comparison): 何と比較するか(標準治療、プラセボ、非曝露群など)。
O (Outcome): どのような転帰(結果)を評価するか。

例えば、「新しい降圧薬Aは良い薬か?」という問いはリサーチクエスチョンとして不十分である。「良い」の内容が、何であるのかが明確でないからである。血圧降下度なのか、脳卒中発症率なのか、副作用の少なさなのか、あるいは医師の使い勝手なのか。これをPICOに落とし込むと、例えば以下のようになる。 「(P)2型糖尿病を合併した高血圧患者を対象に、(I)降圧薬Aの投与は、(C)標準治療である降圧薬Bの投与と比較して、(O)5年後の末期腎不全への移行を抑制するか?」このようにPICOを明確にすることで、対象患者の選択・除外基準、必要な介入、比較対象、そして評価すべき項目(主要評価項目)が自ずと定まる。

 

5.介入とは

介入とは、研究目的で人の健康に関する事象へ影響しうる要因を、意図して「制御する」行為である。制御とは、ある要因が本来のまま推移してしまうのをそのまま受け入れるのではなく、研究の目的に応じて意図的に変化させる、あるいは変化しないように保つことを指す(表1) 。

表1 介入とは.

 

したがって介入は、通常の診療を超える医療行為として新しい治療や薬を行う場合に限らない。例えば、医療行為を伴わない場合であっても、研究者が作為的または無作為に参加者を割り付け、治療や曝露条件をあらかじめ決めた枠組みに従って受ける(あるいは受けない)ようにするなど、要因を研究として操作すれば介入に該当する。

 

6.臨床研究におけるバイアス(偏り)とその制御

臨床研究において、真の値から結果を系統的に逸脱させる要因をバイアス(偏り)と呼ぶ。バイアスを完全に排除することは不可能であるが、研究デザインの工夫によって最小限に抑えることが内的妥当性(研究結果が対象集団において正しいこと)を高める鍵となる。

1) 選択バイアス (Selection Bias)

研究対象者を選ぶ段階で生じる偏りである。
問題点: 例えば、重症患者には新薬を使いたがり、軽症患者には従来薬を使うといった医師の意図が入ると、新薬の効果が正しく評価できなくなる。
対策ランダム化(無作為化)。くじ引きのように、介入群と比較群を確率的に割り付けることで、既知および未知の患者背景(年齢、性別、重症度、併存疾患など)を両群間で均一にする。

2) 情報バイアス (Information Bias) / 測定バイアス

データの収集や測定の段階で生じる偏りである。
問題点: 患者や医師が「どちらの治療を受けているか」を知っていると、主観的な評価項目(痛み、QOL、副作用など)に偏りが生じる。これを観察者バイアスと呼ぶ。
対策: 盲検化(マスキング)。患者だけが知らない「単盲検」、患者も医師(評価者)も知らない「二重盲検」がある。外見で区別がつかない「プラセボ」や、手術手技であれば「シャム手術」を用いることで盲検化を保つ。

3) 交絡 (Confounding)


対策:研究計画段階でランダム化、層別化(主要な交絡因子となるような年齢、重症度、基礎疾患などごとに層を作り、層ごとに解析できるようにする)、制限の精密化(交絡因子に強く関連する患者を除外するなど)、あるいはマッチング(症例-対照研究で交絡因子を揃えるように割り付ける)。また解析段階で層別解析、多変量解析、Propensity score(傾向スコア)を用いた解析を考慮する。

曝露(介入)とアウトカムの両方に関連する第三の因子(交絡因子)によって、曝露とアウトカムの間に真とは異なる関連が見えてしまうことである。
例えば、コーヒーを飲む人(曝露)は肺がん(アウトカム)になりやすい」というデータがあったとする。しかし、コーヒーを飲む人は喫煙率も高い傾向にあり、肺がんの真の原因は喫煙であった。この場合、喫煙が交絡因子ということになる。

 

7.対照の必要性と「三た論法」の回避

単群試験(図5)には大きな落とし穴がある。 

図5 単群試験(前後比較).

 

「薬を使った(I)→病気が治った(O)→だから薬が効いた」という論法は、俗に「三た論法」と呼ばれ、科学的には不十分である。なぜなら、対照(その治療をしない群)がない場合、以下の要因による改善を薬の効果と誤認する可能性があるからである。
自然経過(自然変動): 治療しなくても時間が経てば治る。
平均値への回帰: たまたま極端に高いあるいは低い値が出ても(偶然の変動)、次は平均に戻りやすい。このため良くなったように見えたりする。
ホーソン効果(行動変容): 研究に参加している、観察されているという意識から、生活習慣を改善する。

真のプラセボ反応: 「良い薬を飲んでいる」という安心感による心理的・生理的効果が働くことを指す。したがって、真の薬効を評価するためには、これらの影響と区別する必要があり、科学的に妥当な対照群(RCTにおけるプラセボ群など)との比較により推定する。

 

8.おわりに:科学的に妥当な比較対照の設定

臨床研究の目的は、臨床上の不確実性を調べ、より良い医療への道筋をつくることである。 研究デザインを選択する際は、まず「何が分かっていて、何が分からないのか」を明確にし、「仮説の生成」なのか「仮説の検証」なのかを決定する。そして、最も重要なのは科学的に妥当な比較対照(コントロール)をどう設定するかである(表2)。

表2 科学的に妥当な比較ができる対照が必要.

 

観察研究であれ介入研究であれ、比較対象が不適切であれば、そこから得られる結論は信頼できない。

本稿で述べた研究デザインの基本を理解していただき、リサーチクエスチョンに応じた最適なデザインを選択・実行することが、エビデンスの質を高め、最終的には患者への不利益を避け、健康寿命の延伸に貢献するエビデンス創出へと繋がると信じている。

 

   

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