1.クロスオーバー比較試験 (Cross-over Study) の構造
クロスオーバー比較試験は、同一の参加者が、時期をずらして2種類(またはそれ以上)の介入(治療Aと治療B)の両方を受けるデザインである(図1)。

図1 クロスオーバー試験の基本骨格.
介入を受ける順番による偏りを避けるため、介入順序をランダムに割り付ける(「A→B」群と「B→A」群)。このデザインの基本構造は以下の通りである(図2)。

図2 クロスオーバー試験の試験デザイン.
1) 対象患者の選定と同意
picoで定義した患者背景を持つ対象者から同意を得る。
2) ランダム化(順番の決定)
患者をランダムに「介入Aを先に受ける群」と「介入Bを先に受ける群」に割り付ける。
3) 第I期
割り付けられた順番に従い、介入A(またはB)を一定期間実施し、その終了時に評価を行う。
4) Washout期間
第I期の介入効果(持ち越し効果)が残らないようにするための、休薬期間を設ける。
5) 第II期
介入を「クロスオーバー(交差)」させ、もう一方の介入B(またはA)を同じ期間実施し、その終了時に評価を行う。
6) 評価
同一患者内での、介入A施行時と介入B施行時の結果を比較する。
2.クロスオーバー試験の適応と前提条件
クロスオーバー試験は、どのような状況でも使えるわけではない。以下の条件が満たされる必要がある。
1) 対象疾患の状態が安定していること
第I期と第II期で疾患の状態が大きく変わらない慢性疾患(例:高血圧、慢性閉塞性肺疾患、症候性心房細動など)が適しており、全員が試験(すべての治療)を完遂しなければいけない。
2) 介入の効果が可逆的であること
介入をやめれば、状態が元に戻る必要がある(例:症状改善薬、一時的な降圧薬など)。
3) 評価項目(アウトカム)
治癒(生死)や疾病の発現といったハードエンドポイントは、クロスオーバー試験で評価できない。症状スコア、検査値(血圧、蛋白尿、血中濃度など)といった、繰り返し測定可能な指標が適している。
3.クロスオーバー試験の利点と欠点
1) 利点
比較する対象が同一人物であるため、年齢、性別、遺伝的背景、併存疾患などの参加者背景が、両介入間で完全に一致する。これにより、群間比較試験で問題となる「未知の交絡因子」の影響を排除できる。また、背景因子のばらつきが極めて小さいため、統計学的な検出力が高まり、並行群間比較試験に比べて少ないサンプルサイズで試験が可能である。
2) 欠点
持ち越し効果 (Carry-over Effect) が残る可能性がある。第I期の介入効果が、Washout期間を経ても残ってしまい、第II期の評価に影響を与えること。これを防ぐため、十分な長さのWashout期間が必要である。次に順序効果 (Period Effect) の問題がある。介入の種類に関わらず、時期(第I期か第II期か)によって結果に差が出ること(例:患者が試験に慣れた、季節変動など)である。さらに両期の評価を完遂しないと解析対象にできないため、途中で脱落した患者のデータが無駄になる。 同一患者が2つの介入を受けるため、一人の患者あたりの参加期間が長くなるなどが挙げられる。