第1章 臨床試験の基礎知識とそのポイント 
7 研究デザイン 
7-7 プラセボ(placebo) 
7-7-2 プラセボ投与時に認められる改善率と構造的理解
(D+P+Nモデルによる理解) 
中野 重行

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1.プラセボ投与時に認められる改善率

プラセボを投与した際に症状が改善する割合は、一般に考えられている以上に高く現れることが知られている。歴史的な報告(Beecher,1955)では平均35%程度の改善が見られ、特に不安や緊張、痛みを伴う症状において顕著である(図31)。日本国内で実施された治験データにおいても、心身症や片頭痛、糖尿病、外傷など幅広い疾患で、十数%から60%を超える高い改善率がプラセボ群で報告されている。

図3 プラセボ効果(反応):The powerful placebo(Beecher).
[H K BEECHER. The powerful placebo. J Am Med Assoc. 159(17):1602-1606, 1955より作成]

2.改善率の構造的理解(NとP)

プラセボ投与時に認められる改善(広義のプラセボ効果)は、構造的に「自然変動(N)」と「真のプラセボ効果(P)」の足し算(N+P)または(P+N)として理解することができる。

 

1)自然変動(N)

人間の身体に本来備わっている自然治癒力や、時間の経過、食事・運動など、プラセボ投与とは無関係に生じる症状の変化を指す。

2)真のプラセボ効果(P)

プラセボを投与されたという安心感や「良くなるはずだ」という期待(暗示効果)によって引き起こされる純粋な効果である。

 

本来、純粋な「P」だけを抽出するには、何も治療をしない無治療群(Nのみ)を設定して差し引く必要がある。しかし、実際の臨床試験では倫理的な観点から無治療群を設けることが難しいことが多いため、通常は「P+N」が合わさった状態で観察されている。

 

3.真の薬効(D)を評価するための考え方(図4,5)

一方、評価対象となる実際の薬(被験薬)を投与した群で観察される改善率は、上記の「P+N」の土台の上に、薬物固有の「真の薬効(D)」が上乗せされたもの(D+P+N)となる。したがって、薬の本当の実力である「真の薬効(D)」だけを正確に評価・抽出するためには、被験薬投与群のトータルの改善率(D+P+N)から、プラセボ投与群の改善率(P+N)を引き算する必要がある。これが、新薬の有効性を評価する臨床試験において、プラセボ対照群との比較が必須とされる理由である。

なお、これらD、P、Nの占める割合は、疾患の種類(痛みや不安ではPが大きく、外傷や感冒などではNが大きいなど)や患者個々人の病態によって大きく異なるという特徴を持っている。

図4 薬物治療効果の構造的理解:薬物投与群、プラセボ投与群、自然経過観察群.
 D: drug effect(真の薬効), P: placebo effect(真のプラセボ反応),N: natural healing power( 自然治癒力).

 

図5 薬物治療効果の構造的理解:D+P+N モデル.

 

文献

1) H K BEECHER. The powerful placebo. J Am Med Assoc. 159(17):1602-1606, 1955

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