1.CONSORTフローチャートで理解するITT・FAS・PPS
臨床試験の論文では、最初に研究参加者の流れを示したCONSORT(Consolidated Standards of Reporting Trials)フローチャート(図9-2-1)を示すことが多い。これは、臨床試験に参加した者がどのように登録され、割り付けられ、解析対象になったかを可視化するものである。まずは典型的な流れを見てみたい。以下のように、大きく4段階に分かれている。
・登録(Enrollment)
・割付(Allocation)
・追跡(Follow-up)
・解析(Analysis)
この中で、「どこまで考慮して解析対象を決めるか」が、ITT(Intention-to-Treat)・FAS(Full Analysis Set)・PPS(Per Protocol Set)の違いの本質である。

図9-2-1 CONSORTフローチャート.
1) ITT解析
臨床試験における基本的な解析原則の一つがITTである。ITT解析とは、「最初に決めた治療方針に基づいて評価する」解析方法で、ITTの枠組みでは、治療が割付けられた全員を、割付けられた通りに解析する。
たとえ治療を途中で中止したり、別の治療に変更したりした場合であっても、最初に割り付けられた群として扱う。図1のCONSORTフローチャートでは、割り付けまで進んだすべての研究参加者がITT解析の対象となる。この解析方法では無作為化によって確保された群間の比較可能性を保つことができる。
臨床試験では患者背景の群間不均衡を防ぐために無作為化が行われるが、解析段階で対象者を除外してしまうと背景要因のバランスが崩れる可能性がある。ITT解析はこの問題を回避し、より実臨床に近い「治療方針の効果(有用性、effectiveness)」を評価することができる。
一方で、ITT解析には治療をまったく受けなかった者や計画書から大きく逸脱した者が含まれるため、「純粋な治療効果(有効性、efficacy)」が薄まる可能性がある。そのため、試験の目的によっては補助的な解析が必要になる。
2) FASによる解析
実際の臨床試験の解析では、ITTの概念をそのまま適用することが難しく、少し現実的に調整した解析対象集団としてFASが用いられる。
FASはITTの原則に従いながら、明らかに解析に不適切な者を除外した集団である。例えば、以下のような症例が除外される。
・同意撤回によりデータ使用が不可能な者
・登録後に重大な適格基準違反が判明した者
・一度も評価データが取得されていない者
多くの治験・臨床試験では、主要解析はFASで行われ、「恣意的な除外」は一切行われない。
3) PPS
PPSは、プロトコルに従って適切に治療を受けた研究参加者のみからなる解析対象集団である。以下のような条件で定義することが多い。
・割り付けられた治療を規定通り(または規定の80%以上を)受けた
・重大なプロトコル逸脱がない
・主要評価項目のデータが取得されている
PPS解析は「意図したとおりに治療を受けることができた場合にどの程度の効果が得られるか」という、いわゆる「純粋な治療効果(有効性、efficacy)」を評価するのに適している。ただし、PPS解析には注意点があります。追跡期間の状況に応じて解析対象の除外が行われるため、群間の背景因子バランスが崩れやすくなり、妥当な比較とならない可能性がある。
また、治療効果が得られず、試験治療を中止した者が除外されると、研究を継続できた者だけが解析対象となり、治療効果の推定にバイアスが入ってしまう。そのため、PPS解析はITT解析を補完する位置づけで用いられる。主解析はITTやFAS、感度解析としてPPSという構成が一般的である。
4) Estimandの考え方(ICH-E9)
近年、臨床試験の解析では「Estimand」という概念が重要視されている。これは、「臨床試験で何を推定したいのか」を明確に定義したものである。従来はITTかPPSかという解析対象集団の違いに焦点が当たっていたが、Estimandではそれに加えて以下の要素を明示する。
・対象集団(どの集団を解析対象とするか)
・治療(どの介入を比較するか)
・エンドポイント(何を評価するか)
・介入後事象(intercurrent events)の扱い
・要約指標(平均差、ハザード比など)
特に重要なのが「介入後事象」の扱いである。例えば、治療中止、救済治療の使用、死亡などがこれに該当する。これらを「どう扱うか」によって、推定される効果の意味が大きく変わる。
・治療中止後も追跡して評価する → 治療方針の効果(ITT解析)
・治療を継続した場合のみ評価する → 治療そのものの効果(PPSを用いた解析)
EstimandはITTやPPSの違いをより明確な形で整理する枠組みといえる。