臨床研究では、制度、研究デザイン、データ、実施体制、統計の方法を表す略語が数多く使われる。略語は短く便利である一方、同じ文字列でも領域によって意味が異なることがある。
本項では、近年よく目にする略語と用語を含め分野別に整理した。各用語には、関連する項目や公的サイトへのリンクを付している。略語を覚えること自体を目的とせず、「誰が、何の目的で、どの場面に用いる言葉か」を確認することが大切である。定義や制度は変わりうるため、最新の内容は公的サイトでの確認が必要である。なお、DCT(Decentralized Clinical Trials : 分散化臨床試験)、リアルワールドデータ(Real World Data : RWD)、PPI(patient and public involvement:患者・市民参画)、遠隔同意(リモートコンセント)の4つについては、続く項目で詳しく説明する。
研究デザインに関する用語
| 用語 | 解説 | リンク先 |
| CQ(クリニカルクエスチョン) | Clinical Question。日常診療の中で生じる、この患者にこの治療は有効かといった具体的な疑問である。 | 本ナビ 第1章7-1 |
| FIH(ヒト初回投与試験) | First in Human。ヒトに初めて投与する試験であり、安全性と忍容性の確認を主目的とする。 | 本ナビ 第1章4-4 |
| FINER | Feasible、Interesting、Novel、Ethical、Relevant。実施可能性、興味深さ、新規性、倫理性、必要性。良いリサーチクエスチョンかを吟味する5つの観点である。 | 本ナビ 第1章7-1 |
| IIS/ISR(研究者主導研究) | Investigator Sponsored Study/Research。企業から資金や薬剤の提供を受けつつ、研究者が主導して行う研究である。 | - |
| IIT(医師主導治験) | Investigator Initiated Trial。企業ではなく、医師・研究者自身が治験依頼者となって実施する治験である。 | 本ナビ 第1章4-2 |
| PECO/PICO | Patient、Exposure(Intervention)、Comparison、Outcome。問いを「誰に、何を、何と比べて、どうなるか」に分解する枠組みである。 | 本ナビ 第1章7-1 |
| PK/PD | Pharmacokinetics/Pharmacodynamics。薬物動態(吸収・分布・代謝・排泄)と、薬力学(薬の作用)を指す。 | - |
| POC試験 | Proof of Concept。期待した作用や効果が実際に現れるかを、少数例で確認する探索的試験である。開発を続けるかの判断材料となる。 | 本ナビ 第1章4-5 |
| RCT(ランダム化比較試験) | Randomized Controlled Trial。参加者を無作為に群へ割り付けて比較する試験であり、因果関係を示す最も確実な方法とされる。 | 本ナビ 第1章7-5 |
| RQ(リサーチクエスチョン) | Research Question。CQを、研究として検証できる形に整理した問いである。PECO/PICOの形に落とし込み、FINERの観点で吟味する。 | 本ナビ 第1章7-1 |
品質管理に関する用語
| 用語 | 解説 | リンク先 |
| CtQ | Critical to Quality factors。結果の信頼性と、参加者の権利・安全に直結する重要な要素。ICH E8(R1)が導入した概念である。 | ICH https://www.ich.org/page/efficacy-guidelines |
| QbD | Quality by Design。品質を後からの検査で確保するのではなく、計画段階から設計に作り込む考え方である。 | ICH https://www.ich.org/page/efficacy-guidelines |
| RBM | Risk Based Monitoring。リスクに基づくモニタリング。重要度に応じて、モニタリングの資源を配分する手法である。 | 本ナビ 第1章10-1 |
| SDV | Source Data Verification。CRFの記載と原資料を1件ずつ突き合わせる作業であり、近年はリモートSDVも普及している。 | 本ナビ 第1章10-1 |
| SOP | Standard Operating Procedure。標準業務手順書。誰が実施しても同じ品質になるよう、手順を文書化したものである。 | - |
体制・関係者に関する用語
| 用語 | 解説 | リンク先 |
| AMED | 日本医療研究開発機構。医療分野の研究費配分機関であり、PPIガイドブックなども公開している。 | https://www.amed.go.jp/ |
| CRA(モニター) | Clinical Research Associate。実施施設を訪問などにより確認し、計画書とGCPの遵守、データの正確性を検証する担当者である。 | 本ナビ 第1章10-1 |
| CRC(臨床研究コーディネーター) | Clinical Research Coordinator。試験の実施を実務面で支え、参加者と研究者をつなぐ専門職である。 | 本ナビ 第1章2-3 |
| CRO | Contract Research Organization。開発業務受託機関。治験依頼者から業務を受託する企業である。 | 本ナビ 第1章2-1 |
| DM(データマネジャー) | Data Manager/Data Management。データマネジメント担当者。データベースの設計、データの収集・照会・固定を担う職種および業務であり、データの品質を実務面で支える。 | 本ナビ 第1章8 |
| EMA | European Medicines Agency。欧州医薬品庁。EU域内の医薬品審査と安全性監視を担う。 | https://www.ema.europa.eu/ |
| FDA | Food and Drug Administration。米国食品医薬品局。医薬品、医療機器、食品などを規制する。 | https://www.fda.gov/ |
| PI(研究責任者・治験責任者) | Principal Investigator。実施施設における責任者である。改正臨床研究法で、研究全体の統括責任の考え方が整理された。 | 本ナビ 第1章2-2 |
| PM(プロジェクトマネジャー) | Project Manager。試験全体の計画・進捗・費用・人員を管理し、依頼者、施設、CROなどの関係者間を調整する職種である。 | 本ナビ 第1章2-1 |
| PMDA | 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構。承認審査、安全対策、健康被害救済の3つの業務を担う、日本の規制機関である。 | 本ナビ 第3章3 |
| PPI(患者・市民参画) | Patient and Public Involvement。患者や市民が、研究の計画などに関与する取り組みである。 | 本ナビ 第1章9-5-3 |
| PV | Pharmacovigilance。医薬品安全性監視。安全性情報を収集・評価し、必要な措置につなげる業務である。 | 本ナビ 第2章6-3 |
| QA/QC | Quality Assurance/Quality Control。品質保証(監査などによる独立した確認)と、品質管理(日常業務の中での点検)である。 | 本ナビ 第1章10-2 |
| SMO | Site Management Organization。治験施設支援機関。医療機関側の実施体制を支援する企業である。 | 本ナビ 第1章2-1 |
| Sponsor(治験依頼者) | 試験の開始・管理・資金に責任を持つ者であり、企業のほか、医師主導治験では医師が担う。 | 本ナビ 第1章4-2 |
| Sub-I(分担医師) | Sub-Investigator。PIの指導のもとで、業務を分担する医師である。 | 本ナビ 第1章2-2 |
法令・審査に関する用語
| 用語 | 解説 | リンク先 |
| COI(利益相反) | Conflict of Interest。研究上の判断が、金銭的関係など第三者の利益に影響されうる状態である。 | 本ナビ 第1章9-1 |
| CRB(認定臨床研究審査委員会) | Certified Review Board。臨床研究法に基づき厚生労働大臣の認定を受け、特定臨床研究を審査する委員会である。 | 本ナビ 第2章4 |
| EC/REC(倫理審査委員会) | Ethics Committee/Research Ethics Committee。生命科学・医学系研究指針に基づき、研究計画の倫理性を審査する。 | 本ナビ 第2章4 |
| ER/ES指針 | Electronic Records/Electronic Signatures。申請などに電子記録・電子署名を用いる際の、国内の要件を示した指針である。 | 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta8216&dataType=1&pageNo=1 |
| EU CTR/CTIS | Clinical Trials Regulation/Clinical Trials Information System。EUの臨床試験規則と、申請から公開までを一元化した情報システムである。 | EMA https://www.ema.europa.eu/en/human-regulatory-overview/research-development/clinical-trials-human-medicines/clinical-trials-information-system |
| GCP | Good Clinical Practice。医薬品の臨床試験の実施の基準であり、計画・実施・記録・報告の全体を規定する。国際的にはICH E6が対応する。 | 本ナビ 第3章1-1 |
| GDPR | General Data Protection Regulation。EU一般データ保護規則。ヨーロッパとの研究でデータを国外へ移転する国際共同研究ではGDPRに配慮する必要がある。 | 個人情報保護委員会「EU(外国制度)」 https://www.ppc.go.jp/enforcement/infoprovision/EU/ |
| GLP | Good Laboratory Practice。医薬品の安全性に関する、非臨床試験の実施基準である。 | 本ナビ 第1章4-3 |
| GMP | Good Manufacturing Practice。医薬品の製造管理および品質管理の基準である。 | 本ナビ 第1章4-3 |
| GPSP | Good Post-marketing Study Practice。製造販売後の調査・試験の実施基準である。 | 本ナビ 第1章4-7 |
| HIPAA | 米国の医療情報プライバシーに関する法律であり、米国の施設とデータをやり取りする際にHIPAAに配慮する必要がある。 | 個人情報保護委員会「外国制度(アメリカ合衆国)」https://www.ppc.go.jp/enforcement/infoprovision/laws/offshore_report_america/ |
| IC(インフォームド・コンセント) | Informed Consent。十分な説明を受け、理解したうえで、自由意思により参加に同意することである。 | 本ナビ 第2章2 |
| ICH | International Council for Harmonisation。日米欧の規制当局と製薬業界が参加し、医薬品開発の基準を国際的に調和させる枠組みである。 | ICH「About ICH Mission」 https://www.ich.org/page/mission |
| ICH E6(R3) | GCPガイドラインの最新改訂版であり、2025年1月にStep 4へ到達した。品質を設計に作り込む考え方を前面に打ち出している。 | ICH「Efficacy Guidelines」 https://www.ich.org/page/efficacy-guidelines |
| IRB(治験審査委員会) | Institutional Review Board。治験の倫理的・科学的妥当性と、参加者の保護を審査する委員会である。 | 本ナビ 第2章4 |
| アセント(インフォームド・アセント) | 同意能力が十分でない小児や知的障害により判断能力が十分でない者などから、年齢や理解力に応じた平易な説明のうえで得る賛意である。 | 本ナビ 第2章2 |
| 臨床研究法 | 特定臨床研究の実施手続、CRBによる審査、jRCTでの公表などを定める法律である。2025年5月31日施行の改正で対象範囲が見直された。 | 本ナビ 第3章1-2 |
安全性・薬事に関する用語
| 用語 | 解説 | リンク先 |
| ADR(副作用) | Adverse Drug Reaction。医薬品との因果関係が否定できない有害事象である。 | 本ナビ 第2章6-2 |
| AE/SAE | (Serious) Adverse Event。因果関係を問わず、参加者に生じたあらゆる好ましくない事象と、SAEはそのうち重篤なものを指す。 | 本ナビ 第2章6-3 |
| IB(治験薬概要書) | Investigator's Brochure。治験薬に関する既知の非臨床・臨床情報をまとめた文書である。 | - |
登録・公開に関する用語
| 用語 | 解説 | リンク先 |
| ClinicalTrials.gov | 米国NIHが運営する、世界最大規模の臨床試験登録・公開サイトである。 | 本ナビ 第1章9-1 |
| CSR(治験総括報告書) | Clinical Study Report。試験の計画・実施・結果を、規制当局への提出用にまとめた報告書である。 | PMDA「治験報告書」 https://www.pmda.go.jp/int-activities/int-harmony/ich/0025.html |
| IPD(個別参加者データ) | Individual Participant Data。参加者1人ごとのデータであり、論文公表後のデータ共有やメタアナリシスの単位となる。 | - |
| jRCT | Japan Registry of Clinical Trials。厚生労働省が運営する臨床研究等提出・公開システムであり、臨床研究法の対象研究や治験を登録・公開する。 | https://jrct.mhlw.go.jp/ |
| UMIN-CTR | UMIN Clinical Trials Registry。大学病院医療情報ネットワーク(UMIN)が運営する、臨床試験登録システムである。 | https://www.umin.ac.jp/ctr/ |
データ・標準に関する用語
| 用語 | 解説 | リンク先 |
| ALCOA/ALCOA+ | データインテグリティの原則。帰属性・判読性・同時性・原本性・正確性に、完全性や一貫性などを加えたものである。 | 本ナビ 第1章10-3 |
| CDASH | Clinical Data Acquisition Standards Harmonization。CRFの収集項目を標準化する規格である。 | 製薬協https://www.jpma.or.jp/information/evaluation/results/allotment/cdash.html |
| CDISC | Clinical Data Interchange Standards Consortium。臨床試験データの国際標準を策定する非営利団体である。 | https://www.cdisc.org/ |
| CTCAE | Common Terminology Criteria for Adverse Events。有害事象共通用語規準であり、重症度をGrade 1〜5で表す。 | JCOG 「CTCAE」 https://jcog.jp/doctor/tool/ctcaev5/ |
| PHR | Personal Health Record。本人が管理・活用する、個人の健康・医療情報である。また、本人同意の下に医療・介護現場で役立てることを目指している情報。 | 厚生労働省「国民の健康づくりに向けたPHRの推進に関する検討会」 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-kenkou_520716_00001.html |
| RWD(リアルワールドデータ) | Real World Data。通常の診療や生活の中で得られる、健康・医療データの総称である。 | 本ナビ 第1章9-5-2 |
統計・解析に関する用語
| 用語 | 解説 | リンク先 |
| FAS/ITT/PPS | Full Analysis Set/Intention To Treat/modified ITT/Per Protocol Set。どの参加者を解析に含めるかを定める解析対象集団である。 | 本ナビ 第1章9-2 |
| SAP | Statistical Analysis Plan。統計解析計画書。解析方法を、結果を見る前に確定しておく文書である。 | 本ナビ 第1章9-1 |
デジタル関係に関する用語
| 用語 | 解説 | リンク先 |
| BYOD | Bring Your Own Device。参加者自身のスマートフォンなどを、試験の入力端末として用いる方式である。 | - |
| DCT(分散型臨床試験) | Decentralized Clinical Trial。デジタル技術や地域の医療ネットワークを活用し、実施医療機関への来院に依存せずに実施する手法である。 | 本ナビ 第1章9-5-1 |
| DDC | Direct Data Capture。紙の原資料を経ず、タブレットなどへ直接データを入力する方式である。自動データ収集される場合は転記ミスも減少する。 | 本ナビ 第1章8 |
| eConsent(電子的同意取得) | electronic Consent。説明文書を画面に表示し、電子署名などにより同意を取得する方法である。 | 本ナビ 第1章9-5-4 |
| EDC | Electronic Data Capture。Web上でeCRFを入力・照会・管理するシステムであり、現在の臨床試験の標準である。 | 本ナビ 第1章8 |
| ePRO | electronic Patient Reported Outcome。スマートフォンやタブレットで、患者自身が直接入力する患者報告アウトカムである。 | 本ナビ 第1章9-4 |
ガイドライン・その他に関する用語
| 用語 | 解説 | リンク先 |
| CONSORT | Consolidated Standards of Reporting Trials。RCTの論文に記載すべき項目を定めた、チェックリストである。 | EQUATOR https://www.equator-network.org/ |
| COREQ/SRQR | 質的研究(インタビュー、フォーカスグループなど)の報告指針である。 | EQUATOR https://www.equator-network.org/ |
| DOI | Digital Object Identifier。論文やデータセットに付与される、恒久的な識別子である。 | - |
| EQUATOR Network | 各種の報告ガイドラインを横断的に探せる、国際的なポータルサイトである。 | EQUATOR https://www.equator-network.org/ |
| OA(オープンアクセス) | Open Access。誰もが無料で読める形で、論文を公開することである。 | - |
| ORCID | 研究者一人ひとりに付与される国際的な識別子であり、同姓同名の混同を防ぐ。 | https://orcid.org/ |
| PRISMA | Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses。システマティックレビュー・メタアナリシスの報告指針である。 | EQUATOR https://www.equator-network.org/ |
| RECORD/RECORD-PE | 日常的に収集されたデータを用いた研究の報告指針であり、STROBEの拡張版である。 | EQUATOR https://www.equator-network.org/ |
| SPIRIT | 介入研究の実施計画書に記載すべき項目を定めた指針であり、CONSORTのプロトコル版にあたる。 | EQUATOR https://www.equator-network.org/ |
| STROBE | Strengthening the Reporting of Observational Studies in Epidemiology。観察研究(コホート、症例対照、横断)の報告指針である。 | EQUATOR https://www.equator-network.org/ |
| プレプリント | Preprint。査読を受ける前の段階で公開される、論文原稿である。 | - |